2026年9月、ロンドンのVictoria and Albert Museum(V&A)で、日本の工芸と現代デザインをつなぐ「Craft x Tech Tokai Project」が展示されます。
Craft x Tech Tokaiは、東海3県6産地の工芸事業者・つくり手と、国内外で活躍する6組のクリエイターが協働し、工芸の技法を家具、照明、空間、現代美術へと再構成するプロジェクトです。
名称から「AIやデジタル技術を伝統工芸へ導入する企画」を想像するかもしれません。しかし、実際の6作品を見ると、それだけでは説明できません。陶土を焼く、紙を漉(す)く、布を括(くく)って染める、七宝を焼き付ける、磁器へ絵付けする、糸を組む。そこに構造設計や光、異素材、国際的なデザイン思考が加わり、従来とは異なる用途へ工芸を展開しています。
2026年5月30日から6月2日には東京・kudan houseで6つの新作が世界初公開され、その後、London Design Festival 2026(以下、LDF2026)にあわせてV&Aでロンドン展示される予定です。LDF2026自体は9月12日から20日までですが、Craft x Tech Tokaiの展示は10月18日まで継続すると公式発表されています。
(参照:Craft x Tech Tokai Project、ロンドンへ|Craft x Tech)
6作品を単に「日本の伝統工芸と海外デザインのコラボレーション」として紹介するのではなく、「技法の何を残し、何を変え、どのような新しい用途へ翻訳したのか」という視点で整理します。さらに、なぜこの規模の国際協働が成立するのか、産地や企業が海外デザイナーと協業するときに何を準備すべきかまで掘り下げます。
目次
Craft x Tech Tokaiとは? 東海6産地×国内外クリエイター6組が挑む国際協働プロジェクト
Craft x Tech Tokaiは、岐阜県・愛知県・三重県にまたがる6つの工芸産地と、国内外で活動する6組のクリエイターが協働するプロジェクトです。Craft x Techの第2弾にあたり、第1弾では東北地方の工芸を対象とした「Craft x Tech Tohoku Project」が展開されました。
2026年のTokai Projectで扱われているのは、美濃焼(みのやき)、美濃和紙(みのわし)、有松・鳴海絞(ありまつ・なるみしぼり)、尾張七宝(おわりしっぽう)、瀬戸染付焼(せとそめつけやき)、伊賀くみひも(いがくみひも)の6分野です。
(参照:Craft x Tech|公式サイト)
Craft x Tech Tokaiを構成する6組
- 美濃焼 × 不動窯・伊藤洋平 × David Caon
- 美濃和紙 × Warabi Paper Company・千田崇統 × Lanzavecchia + Wai
- 有松・鳴海絞 × スズサン・村瀬弘行 × Bethan Laura Wood
- 尾張七宝 × 安藤七宝店・安藤重幸 × Philippe Malouin
- 瀬戸染付焼 × 眞窯・加藤真雪 × 寒川裕人(EUGENE STUDIO)
- 伊賀くみひも × 糸伍・松田智行 × Atang Tshikare
ここで重要なのは、「海外デザイナー6組」ではなく「国内外のクリエイター6組」であることです。瀬戸染付焼との協業には、日本の現代美術家・寒川裕人氏が参加しています。
東海地方が扱われる背景について、Craft x Techは、豊かな自然資源に加えて、東海道や中山道を通じた人・物・技術の往来、さらに現代まで続くものづくりの集積を挙げています。工芸と工業的な生産文化が同一地域に共存していることも、このプロジェクトを考えるうえで重要な文脈です。
工芸の「産地」は、単なる所在地ではありません。素材の供給、道具、加工技術、窯、分業、職人、事業者、流通などが地域の中で結びついた生産のエコシステムでもあります。海外にJapanese craftを伝える際にも、「岐阜で作られた焼き物」と地名だけを説明するより、地域に蓄積された技術体系まで含めて理解する方が本質に近づけます。
発案者・キュレーター、そして東北編(第1弾)からの継続性
Craft x Techの総合プロデューサー/クリエイティブディレクターを務めるのは、デザイナー兼エンジニアの吉本英樹氏です。キュラトリアルディレクターはMaria Cristina Didero氏が担当しています。
(参照:Craft x Tech Tokai Project、ロンドンへ|Craft x Tech)
今回注目したいのは、東北から東海へと地域を変えながらプロジェクトが継続していることです。
工芸と海外デザイナーの協業は、完成作品だけを見れば華やかです。しかし、実際には素材理解、試作、修正、コミュニケーション、展示、物流など、多くの時間と調整を必要とします。単発のPR企画ではなく、地域ごとに方法論を蓄積するプロジェクトであることは、Craft x Techを見るうえで重要な特徴です。
ただし、各工房がどこまで中長期的な事業展開を見込んで参加しているかについては、外部から一律に断定すべきではありません。プロジェクトの継続性と、個々の参加者の経営判断は分けて考える必要があります。
どこで、いつ見られる? ロンドン・デザイン・フェスティバル2026とV&A展示の実務情報
LDF2026は2026年9月12日から20日まで開催されますが、Craft x Tech TokaiのV&A展示は9月12日から10月18日まで継続予定です。
会場はロンドンのVictoria and Albert Museum(V&A)内「The Daylit Gallery」。Craft x Tech公式では展示時間を10:00〜17:45、入場を無料と案内しています。開催情報は変更される可能性があるため、実際に訪れる際はV&A、London Design Festival、Craft x Techの最新情報を確認してください。
(参照:Craft x Tech Tokai Project、ロンドンへ|Craft x Tech)
(参照:Craft x Tech Tokai Project|London Design Festival)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| LDF2026会期 | 2026年9月12日〜20日 |
| Craft x Tech Tokai展示 | 2026年9月12日〜10月18日予定 |
| 会場 | Victoria and Albert Museum(V&A)The Daylit Gallery |
| 展示時間 | 10:00〜17:45(公式発表時点) |
| 入場 | 無料(公式発表時点) |
LDF2026全体の中でのCraft x Tech Tokaiの位置づけ
London Design Festivalは2026年で24回目を迎えます。公式発表では、国際交流、クラフトの再評価、未来志向のテクノロジーなどが2026年の重要な方向性として示されており、Craft x Tech Tokaiは「Special Projects」のひとつとして参加します。
(参照:A First Look at LDF26|London Design Festival)
ここで「LDF全体のおすすめ展示」を網羅する必要はありません。Craft x Tech Tokaiの価値は、6つの工芸と6組のクリエイターを同じ条件で比較できることにあります。むしろ一つのプロジェクトへ焦点を絞ることで、日本工芸が現代デザインへ変換される過程を具体的に読むことができます。
職人×産地×デザイナー×成果物——6組のコラボレーションを分解する【比較表】
6作品に共通するのは、工芸を「日本的な意匠」として表面へ追加するのではなく、素材、工程、構造、光、用途そのものへ技法を組み込んでいることです。
完成品の種類ではなく、「従来の工芸から何が変換されたのか」に注目すると、それぞれの協業の違いが見えやすくなります。
| 作品 | 工芸・産地 | 工房・つくり手 | クリエイター | 公式に確認できる主な構成 | 工芸ジャポニカが見る「変換」 |
|---|---|---|---|---|---|
| Fushi | 美濃焼/岐阜県 | 不動窯・伊藤洋平 | David Caon | 陶製モジュール、木、LEDによるコンソールと照明 | 器の技術→家具・照明/モジュール構造 |
| Grid Unwoven | 美濃和紙/岐阜県 | Warabi Paper Company・千田崇統 | Lanzavecchia + Wai | 美濃和紙、木、LEDによる自立式スクリーン | 紙→光と空間を制御する建築的素材 |
| Kataginu | 有松・鳴海絞/愛知県 | スズサン・村瀬弘行 | Bethan Laura Wood | 染色布、スチール、LEDによる照明 | 染色・衣服→立体照明 |
| Kasane | 尾張七宝/愛知県 | 安藤七宝店・安藤重幸 | Philippe Malouin | 銅と七宝によるスタッキングボックス | 表面装飾→積層可能な立体プロダクト |
| Chair in Japanese Nuki and Dami style, The Everyday at the Atelier (Standard / Child Scale) |
瀬戸染付焼/愛知県 | 眞窯・加藤真雪 | 寒川裕人(EUGENE STUDIO) | 瀬戸染付焼の磁器タイルと、ほぞ継ぎの木工技法による椅子・茶器 | 器の絵付け→家具と日常空間 |
| Yamollo | 伊賀くみひも/三重県 | 糸伍・松田智行 | Atang Tshikare | 組紐、FRP、スチール、LEDによる彫刻的照明 | 紐→照明・彫刻・空間の仕切り |
美濃焼×David Caon、美濃和紙×Lanzavecchia + Wai(岐阜県2産地)

美濃焼とDavid Caonによる「Fushi」は、美濃焼の技法で作られた同一形状の陶製モジュールを組み合わせ、コンソールテーブルと照明へ展開した作品です。素材には陶、木、LEDが用いられています。表面には織部釉(おりべゆう)が使われ、精密なモジュール構造と、焼成(しょうせい)によって一つひとつ異なる釉薬(ゆうやく)の表情が共存しています。
(参照:Fushi|Craft x Tech)
ここで起きているのは、「焼き物を家具の表面へ貼る」という装飾的な応用ではありません。陶磁器そのものを構造をつくるモジュールとして読み替えている点が重要です。
さらに興味深いのは、構造を精密に設計しながら、焼成による個体差を消していないことです。工芸をプロダクトへ展開するとき、品質を高めることを「すべてを均一化すること」と捉える必要はありません。どの差を制御し、どの揺らぎを価値として残すのか。その判断自体がデザインになります。
一方、美濃和紙とLanzavecchia + Waiによる「Grid Unwoven」は、伝統的な障子(しょうじ)を、美濃和紙、光、構造から再解釈した自立式スクリーンです。

公式説明によると、本作のために考案された紙漉き(かみすき)の工程では、水と重力によって繊維を垂直方向に流し、上部と下部で密度を変えています。背後からLEDで照らすことで、和紙の繊維、厚み、透過性そのものを見せています。
(参照:Grid Unwoven|Craft x Tech)
つまり和紙を「紙製品」として見るのではなく、光を透過し、その強さを制御できるマテリアルとして捉え直しています。
これは工芸の商品開発で有効な発想です。「今作っている製品をどう現代風にするか」ではなく、「この素材は、まだ何に使えるか」と問い直す。そこまで戻ると、照明、建築、ホテル、商業空間、インスタレーションなど、従来の商品分類とは違う可能性が見えてきます。
有松・鳴海絞×Bethan Laura Wood、尾張七宝×Philippe Malouin、瀬戸染付焼×EUGENE STUDIO(愛知県3産地)
有松・鳴海絞とBethan Laura Woodによる「Kataginu」は、括り、畳み、縫いによる絞りの複雑な質感を、立体的な照明へと展開した作品です。日本の伝統的な上衣「肩衣(かたぎぬ)」から着想し、染色布、スチール、LEDで構成されています。
(参照:Kataginu|Craft x Tech)

ここで残されているのは、単なる絞り模様ではありません。布を括る強さ、畳み方、縫い方、染料の浸透によって生まれる予測しきれない表情です。
一方、変わったのは「光との関係」です。衣服や染色布として外から光を受けるものが、照明となることで内側から光をまとう。技法を変えず、見る条件を変えることで新しい用途が生まれています。
尾張七宝とPhilippe Malouinによる「Kasane」は、銅と七宝を用いたスタッキングボックスです。京都・銀閣寺の向月台(こうげつだい)から着想した切頭円錐形を採用し、各パーツを単体でも、積層しても使える構造としています。表面には銀線七宝(ぎんせんしっぽう)によるモチーフが施されています。
(参照:Kasane|Craft x Tech)

七宝は、金属胎にガラス質の釉薬を施し、焼成して表現する技法です。Kasaneでは、七宝の情報量に対して立体形状は比較的抑制されています。
海外向け工芸商品で陥りやすいのが、「日本の工芸だと一目で分かる記号を追加する」という発想です。しかし技法そのものに十分な存在感がある場合、むしろ形を抑えることで素材や加工が見えやすくなる場合があります。「日本らしさを何個加えるか」ではなく、工芸の情報をどう見せるか。この発想は海外市場を考える際にも重要です。
瀬戸染付焼と寒川裕人氏(EUGENE STUDIO)による作品では、瀬戸染付焼の磁器タイルと、伝統的なほぞ継ぎの木工技法を組み合わせ、椅子と茶器が制作されています。
ここで使われている「濃み(だみ)」は、木工技法ではありません。染付において面を筆で塗り込む絵付けの技法です。公式説明では、「濃み」が生み出す藍色の揺らぎと眞窯による手描きの絵付けを、磁器タイルと家具へ展開していることが示されています。
(参照:Chair in Japanese Nuki and Dami style, The Everyday at the Atelier|Craft x Tech)

作品の原型になっているのは、アトリエで使われてきた椅子と、窯元で長く親しまれてきた茶器です。
工芸の未来というと、日常から遠く離れた奇抜な造形を想像しがちです。しかし、工芸の多くは本来、生活の中で使われながら改良されてきました。新しさは、日常から離れることと同義ではありません。この作品は、そのことを静かに示しています。
伊賀くみひも×Atang Tshikare(三重県1産地)

伊賀くみひもと南アフリカ出身のAtang Tshikareによる「Yamollo」は、組紐、FRP、スチール、LEDを用いた彫刻的な照明作品です。中央の照明と、それを囲むシールドから構成され、周囲のシールドは空間を仕切る機能も持っています。
(参照:Yamollo|Craft x Tech)
伊賀くみひもは、帯締めや羽織紐など和装との関係で知られています。一方、参加事業者の糸伍は、シューレースやグッズ、建築素材など、すでに和装以外の領域にも組紐を展開してきた事業者です。
Yamolloでは、その発想がさらに大きなスケールへ拡張されています。
手の中で扱われていた「紐」が、人の身体と向き合うサイズまで大きくなると、組み目は単なる装飾ではなく、色、面、光、空間を構成する要素になります。
小さな工芸技法をスケールアップすると、装飾だったものが構造や空間になる。これは工芸を建築、インテリア、ホテル、店舗などへ接続する際にも応用できる視点です。
なぜ「東海」で、なぜこの座組が成立するのか——編集長の一次視点
ここまで6作品を見てきて、一つ強調しておきたいことがあります。
Craft x Tech Tokaiを「日本の工芸が優れているから、世界的デザイナーが興味を持った」という物語だけで説明するのは不十分です。
この規模の協業を成立させるには、少なくとも「技法とクリエイターをつなぐキュレーション」「工房・事業者側の技術と試作対応」「作品を成立させる異分野の設計知識」という複数の条件が必要です。
例えば、美濃焼と工業デザイン、美濃和紙と光・空間設計、有松・鳴海絞と立体照明、伊賀くみひもと大型造形。6組は、出来上がった工芸品に外部のデザインを被せるのではなく、技法が何をできるかというレベルまで戻って組み合わせています。
さらに重要なのは、産地側を単なる「制作担当」と捉えないことです。
陶土をどの形で焼けるか。和紙の繊維をどこまで制御できるか。絞りによる偶然性をどこまで作品として成立させられるか。七宝はどの形状へ施せるか。組紐を大型化したとき何が起きるか。
これらは外部デザイナーだけでは判断できません。工芸側の材料知と工程知が、作品の設計条件そのものになっています。
編集長コメント
実際の協業では、デザイナーのアイデアが工芸を一方向に変えるだけではありません。素材ができないこと、焼成の揺らぎ、手仕事の限界、工程上の制約がデザインを変えることもあります。
優れた工芸コラボレーションとは、制約を消すことではなく、双方の知識が互いの設計を変える状態をつくることだと考えます。
Craft x Techが東北編から東海編へ続いている点にも意味があります。ただし、「継続プロジェクトだから各参加工房が将来の事業展開を保証されている」とまでは言えません。プロジェクト全体の継続性と、参加者それぞれの経営上の成果は分けて評価すべきでしょう。
「工芸×テクノロジー」という言葉の誤解されやすさ
「Craft x Tech」という名称から、AI、ロボティクス、3Dプリンターなどのデジタル技術を工芸へ導入する企画だと受け取る人もいるでしょう。
しかし、今回のTokai Projectをその理解だけで見ると、本質を取りこぼします。
Craft x Tech自身は、Craft x Techについて「日本の工芸に宿る感性と、それに向き合う思考と手の力――“tech”の本質を問い直す」プロジェクトと説明しています。
(参照:Craft x Tech|公式サイト)
実際の6作品から見える「Tech」は、少なくとも次の4層に分けて考えると理解しやすくなります。
- Material intelligence:陶土、釉薬、繊維、染料、金属、糸といった素材を扱う知識
- Process intelligence:焼成、紙漉き、絞り、染色、七宝、絵付け、組みといった工程知
- Structural design:工芸素材を家具、スクリーン、照明として成立させる構造設計
- Digital / lighting technology:LEDなど、現代的な機器・光源によって素材の見え方や用途を拡張する技術
つまり、ここでのポイントは「Tech=デジタルではない」ということです。
陶芸の焼成を制御することも、紙の繊維密度を調整することも、組紐の構造を設計することも技術です。そこへ現代の構造設計や光が加わることで、新しい用途が生まれます。
古い技術を新しい技術が一方的にアップデートするのではなく、異なる技術体系をどこで接続するか。Craft x Tech Tokaiは、その実験として見る方が実態に近いでしょう。
日本の産地・企業が海外デザイナーと協業するには? 実務チェックリスト
Craft x Tech Tokaiのような事例から実務的に学ぶなら、完成した作品だけを見るのではなく、協業前に何を共有できている必要があるかを考えることが重要です。
海外ブランドやデザイナーとの協業を検討する工房、産地、自治体、企業であれば、少なくとも次の項目を整理しておきたいところです。
- 技法の核:変更してはいけない工程や、価値の中心は何か
- 変更可能範囲:形、色、サイズ、素材、用途をどこまで変えられるか
- 素材の制約:割れ、収縮、色差、強度、繊維の個体差など何が起こるか
- スケール:大型化・小型化した場合に技法や品質がどう変わるか
- 異素材との接続:木、金属、樹脂、光源、建材などと組み合わせられるか
- 試作体制:どの程度の試作・修正に対応できるか
- 量産性:一点制作なのか、一定数を反復生産できるのか
- 物流:梱包、重量、破損リスク、海外輸送に対応できるか
- メンテナンス:設置後の修理、交換、補修をどうするか
- 知的財産とクレジット:デザイン、技法、作品名、写真、製造者名をどう扱うか
特に重要なのは、「何ができるか」だけではなく「何ができないか」まで共有することです。
「この大きさ以上では歪みやすい」「完全に同じ色は再現できない」「乾燥に時間が必要」「手仕事のため一定の個体差が出る」といった条件は、ネガティブな情報ではありません。
最初から共有すれば、それ自体がデザイン条件になります。
Fushiにおける精密なモジュールと織部釉の揺らぎは、その考え方を理解する好例です。均一性を完全に追求するのではなく、構造として必要な精度と、工芸として残す個体差を分けています。
もう一つ重要なのは、最初から完成商品を決めすぎないことです。
「この技法でランプを作りたい」から始める方法もあります。しかし、「この素材は光を通すとどう見えるか」「大型化すると何が起こるか」「表面装飾ではなく構造にならないか」という問いから始めると、既存カテゴリーから離れた用途が見つかることがあります。
海外展開とは、国内で完成した商品をそのまま輸出することだけではありません。技法を異なるデザイン言語へ翻訳し、新しい市場カテゴリーへ接続することも海外展開です。
工芸ジャポニカでは、法人・自治体・工芸関連事業者に向けて、工芸を活用した商品開発、企業・作家とのコラボレーション、空間演出、販路開拓などの相談を受け付けています。完成商品の発注だけでなく、「自社の素材や技法を別分野へ展開できないか」という企画段階から検討することも可能です。
よくある質問(FAQ)
Craft x Tech Tokaiの会期、参加産地、「Tech」の意味など、来場前や情報収集時に確認したいポイントをまとめます。
- Craft x Tech Tokaiはいつ、どこで見られますか?
- 2026年9月12日から10月18日まで、ロンドンのVictoria and Albert Museum(V&A)内「The Daylit Gallery」で展示される予定です。London Design Festival 2026自体の会期は9月12日から20日までです。
- Craft x Tech Tokaiの入場料はいくらですか?
- Craft x TechおよびLondon Design Festivalの公式情報では、入場無料と案内されています。開館時間や入場方法は変更される可能性があるため、訪問前に最新の公式情報をご確認ください。
- Craft x Tech Tokaiにはどの工芸が参加していますか?
- 美濃焼、美濃和紙、有松・鳴海絞、尾張七宝、瀬戸染付焼、伊賀くみひもの6分野です。岐阜県、愛知県、三重県の東海3県から参加しています。
- 参加者は海外デザイナー6組ですか?
- いいえ。正確には国内外で活躍する6組のクリエイターです。瀬戸染付焼との協業には、日本の現代美術家・寒川裕人氏(EUGENE STUDIO)が参加しています。
- 「Craft x Tech」のTechはAIやデジタル技術を意味しますか?
- それだけではありません。LEDなど現代的な技術も用いられていますが、素材を扱う知識、焼成、紙漉き、染色、七宝、絵付け、組みなどの工程知や構造設計も含めて考えると、プロジェクトの特徴を理解しやすくなります。
- 瀬戸染付焼の「濃み(だみ)」とは何ですか?
- 染付の絵付けにおいて、筆で面を塗り込む技法です。Craft x Tech Tokaiの作品では、濃みが生む藍色の揺らぎと手描きの絵付けが磁器タイルへ展開され、ほぞ継ぎによる木製の椅子と組み合わされています。
- 工芸事業者がCraft x Tech Tokaiから学べることは何ですか?
- 完成品を海外向けに装飾するのではなく、素材や技法の核を残しながら、用途、構造、スケール、市場カテゴリーを変えるという考え方です。「何を海外へ売るか」だけでなく、「自社の技術は別分野で何ができるか」と考えるヒントになります。
- 海外デザイナーとの協業では、最初に何を準備すべきですか?
- 技法の核、変更可能な範囲、素材の制約、製作可能なサイズ、試作体制、量産性、物流、メンテナンス、知的財産やクレジットの扱いなどを整理することが重要です。
まとめ
Craft x Tech Tokaiは、東海3県6産地の工芸事業者・つくり手と国内外6組のクリエイターが協働し、日本工芸の技法を家具、照明、空間、現代美術へと展開するプロジェクトです。
LDF2026にあわせてV&Aで展示されますが、注目すべきなのは「日本の伝統工芸がロンドンへ進出する」という結果だけではありません。
Fushiでは器の技術が家具へ、Grid Unwovenでは和紙が空間へ、Kataginuでは染色が照明へ、Yamolloでは組紐が身体スケールの立体へと変わっています。
そこで共通しているのは、伝統を捨てることでも、昔の完成形をそのまま守ることでもありません。
残しているのは、素材への理解、工程、技法の原理、職人や事業者が蓄積してきた判断です。一方で、用途、構造、スケール、他素材との関係は大胆に変えています。
工芸の海外展開について考えるとき、私たちは「日本らしい商品を海外へどう売るか」という問いから始めがちです。
しかし、その一段前にあるべき問いは、「この技法は、本当は何ができるのか」ではないでしょうか。
工芸を深く理解すればするほど、表面的な和風表現に頼らなくても、家具、照明、建築、インテリア、collectible designなど、異なる領域へ接続する可能性が見えてきます。
London Design Festival 2026でCraft x Tech Tokaiを見る機会があれば、完成作品の美しさだけではなく、「元の工芸から何が残り、何が変わったのか」を6作品で比較してみてください。
そこに見えてくるのは、「伝統と革新」という便利な言葉だけでは説明しきれない、日本工芸を次の用途、次の市場、次の文化圏へ翻訳するための具体的な方法です。





