世界のアート市場と二次流通の拡大 – 成長の勢い
アート市場全体は、世界中で年々拡大を続けており、2022年の世界アート市場の総取引額は約650億ドルに達しました(Art BaselおよびUBSによる「アートマーケットレポート2022」より)。
その中でも、特に注目されているのが、コレクター同士で作品を再販する二次流通市場です。この市場は、アート取引全体の約50%以上を占めており、2022年の取引額は約350億ドルに達しました。
二次流通市場が活況を呈している背景には、アート作品が一度購入された後も、さらなる価値を生む投資対象として見られていることがあります。工芸品やアート作品は、希少性や文化的背景により、時間の経過とともに価値が高まる可能性があるため、資産形成手段としても注目されています。
これは、日本の伝統工芸品にも当てはまる現象で、伝統工芸品や美術作品を扱うECサイトARTerraceのようなプラットフォームが、この流動性の高い市場に新たな価値を提供しています。
アート市場に潜む「贋作問題」 – 深い闇とその影響
アート市場の拡大とともに浮き彫りになっているのが、贋作の問題です。FBIの調査によれば、世界のアート市場で取引される作品の約20%が贋作とされています。この問題は、特に高額なアートやコレクターアイテムに顕著であり、作品の真正性や所有権を証明する信頼性の高い手段が求められてきました。
贋作が市場に出回る理由はさまざまですが、その背景には、コレクターが高額な作品に対する所有欲や、希少性のあるアート作品に対する投資的な興味が関わっています。贋作を販売する業者や個人は、こうしたコレクター心理に付け込み、巧妙に偽造した作品を市場に流通させています。特に、経済的な見返りが大きい作品では、偽造技術も高度化し、専門家ですら判別が難しいケースが増えています。
贋作が蔓延することで、市場全体に深刻な影響を与えます。まず、真贋が不明確な作品が出回ることで、コレクターの信頼が失われ、アート市場全体の信頼性が低下します。これにより、正当な価値がある作品の価格も押し下げられるリスクがあります。また、贋作が市場に多く流通することで、特定のアーティストやジャンルに対する評価も歪められる可能性があり、長期的に見れば文化的損失にもつながるのです。
証明書の機能 – 長年使われてきた手法の限界
従来、アート作品の真正性を証明するためには、証明書や鑑定書が主に使われてきました。これらは、作品の作家やギャラリー、専門の鑑定士が発行する書類で、作品が本物であることを保証するものです。例えば、ルーブル美術館や大手ギャラリーでは、作品の販売時に証明書を付けて、コレクターに対して作品の真正性を保証しています。
しかし、証明書システムにも大きな限界があります。まず、証明書自体が偽造されるリスクがあります。加えて、証明書が発行された時点での情報に頼るため、作品がその後に取引された履歴や、所有者が変更されたことが記録されない場合が多くあります。証明書が紛失したり、改ざんされたりするリスクもあり、長期的にその真正性を維持することが難しいのです。
さらに、市場における複数回の取引の中で、証明書が途切れるケースも見られ、所有者の変遷が不明瞭になることで、作品の評価や価値に悪影響を及ぼすこともあります。結果として、証明書だけに依存することは贋作問題を解決するには不十分であることが認識されてきました。
世界的な対応 – ブロックチェーン技術とNFTの導入による変革
贋作問題に対処するため、アート市場は技術革新に依存するようになりました。特に、ブロックチェーン技術の導入が注目されています。この技術は、アート作品の履歴や所有権をデジタル台帳に記録し、透明で不変な形で管理することができます。従来の証明書よりもはるかに高い信頼性と安全性が提供され、コレクターは安心して作品を取引できるようになりました。
1. Tagsmart – デジタル証明書と物理タグの組み合わせ
イギリスを拠点とするTagsmartは、物理的なアート作品に対する贋作対策として、デジタル証明書と物理タグを組み合わせたアプローチを提供している企業です。Tagsmartは、アーティストやギャラリーが作品に個別のタグを付与し、それに対応するデジタル証明書を発行します。作品の真正性が物理的にもデジタル的にも保証され、作品の履歴を追跡可能にします。
Tagsmartの特徴的な技術は、タグ自体が耐偽造性を備えており、アート作品に直接貼り付けられるか、フレーム内に埋め込まれます。タグには、識別可能な情報(QRコードやNFCチップなど)が含まれており、それをデジタル証明書とリンクすることで、所有者は作品の履歴や証明書に簡単にアクセスできます。
また、作品が再販されるたびに、デジタル証明書と物理タグを更新することができ、最新の所有者や取引履歴が記録されます。Tagsmartは、これにより贋作リスクを排除し、アート作品の価値と信頼性を高めることを目指しています。
2. Verisart – ブロックチェーンベースの証明書管理
アメリカを拠点とするVerisartは、アート作品の真贋を確認するためにブロックチェーン技術を用いたプラットフォームを提供しています。Verisartは、物理的なアート作品に対しても、ブロックチェーンベースのデジタル証明書を発行し、その作品の履歴と所有権を透明で不変な形で管理します。
Verisartは、アーティストやギャラリーが作品のデジタル証明書を登録し、それがブロックチェーンに記録されるため、作品が市場に出回るたびに、その取引履歴や所有者の情報がデジタル台帳に記録され、永久に改ざん不可能な形で保存されます。
Verisartは、特に高額なアート作品やコレクターアイテムに対する真贋判定に強みを持っており、アーティスト本人が証明書を直接登録できる仕組みを提供しています。贋作の発生リスクを最小限に抑えつつ、コレクターが安心してアート作品を取引できる環境を提供しています。また、Verisartは物理的な証明書とデジタル証明書を組み合わせたハイブリッドなアプローチを採用しており、作品の安全性を二重に担保しています。
3. ARTiFACTS – 作品の由来(プロヴェナンス)を記録するシステム
ARTiFACTSは、アート作品のプロヴェナンス(由来)を記録・管理するためのプラットフォームです。プロヴェナンスとは、アート作品がどのような所有者のもとを経てきたのか、その流通履歴を示す情報です。アート作品の価値は、プロヴェナンスによって大きく左右されるため、贋作のリスクを減らすためにその管理が非常に重要です。
ARTiFACTSは、ブロックチェーン技術を活用し、作品のプロヴェナンスをデジタルで管理します。作品がどこで作られ、どのように取引され、誰が所有しているのかを透明に追跡することができます。ブロックチェーンに記録された情報は、改ざんが不可能であるため、作品の取引における信頼性を大幅に向上させます。
このシステムは、アーティスト、ギャラリー、オークションハウスがアート作品を登録し、その由来を明確にすることで、贋作リスクを低減させることを目指しています。特に高額な美術品やコレクターズアイテムに対して利用され、アート市場全体の透明性を確保するための重要なツールとなっています。
4. Prooftag – バブルタグ技術で唯一無二の証明
Prooftagは、アート作品に対する物理的な贋作防止技術を提供しているフランスの企業です。この会社の提供する技術の一つにバブルタグというものがあります。これは、各アート作品に取り付けられたラベルに一意の泡模様を生成し、それを作品の証明書として登録する技術です。泡の模様はランダムに生成され、完全に再現不可能なため、贋作や偽造を防ぐのに効果的です。
バブルタグは物理的なラベルとして作品に取り付けられ、そのタグに対応するデジタル証明書が発行されます。購入者やコレクターは、タグを確認することで、その作品が本物であることを即座に確認できるだけでなく、対応するデジタル証明書をオンラインで確認することが可能です。
Prooftagは、バブルタグを使って美術品だけでなく、高価なワインやラグジュアリーアイテムなどにも応用されています。これは、アート作品の贋作を防ぐだけでなく、所有者が安心して取引できる環境を提供するものであり、特に高価なコレクターアイテムに強い支持を得ています。
5. Blockchain Art Collective(BAC) – 物理作品とデジタル履歴の融合
Blockchain Art Collective(BAC)は、アート作品に専用のNFCタグを取り付け、そのタグが作品のデジタル証明書と連携することで、物理的なアート作品とデジタル履歴を融合させた技術を提供しています。BACのアプローチでは、物理的なアート作品に小型のNFCチップを取り付け、そのチップに埋め込まれた情報をスマートフォンでスキャンすることで、作品の履歴や所有権、プロヴェナンス情報にアクセスできます。
NFCタグには作品の詳細情報が含まれており、タグをスキャンするとブロックチェーン上のデジタル証明書と照合することができます。所有者はアート作品が本物であることを証明し、その履歴を確認することができます。BACの技術は、物理的な証明書に代わる安全な方法として注目されており、特に高価な美術品や骨董品の贋作防止に効果的です。
世界各国での取り組み – NFTとブロックチェーンを使った新たな市場形成
NFTとブロックチェーン技術を活用した取り組みは、アート市場や高級品市場だけでなく、世界中でさまざまな形で実践されています。例えば、イギリスでは、現代アートの新たな販売手法として、若手アーティストの作品をNFTとして販売するマーケットが急成長しています。
若手アーティストがグローバルな市場にアクセスできるようになり、従来の画廊やオークションハウスに依存することなく、自らの作品を世界中のコレクターに届けることができるようになっています。
また、アメリカでは、ハリウッド業界でもNFTが活用され始めています。映画や音楽などのコンテンツがデジタル化され、その所有権や配信権をNFTとして販売することで、コンテンツの取引に透明性をもたらしています。
映画や音楽の著作権者は、自分の作品がどこでどのように使われているかを把握でき、二次利用からの利益もスマートコントラクトを通じて確保できるようになりました。
ARTerraceの革新的取り組み – 3DスキャナーとNFTによる真贋判定
ARTerraceは、アート市場に蔓延する贋作問題に対処するため、革新的な技術と徹底したプロセスを駆使し、新しい真贋判定のシステムを提供しています。特に、3Dスキャナー技術とNFT(Non-Fungible Token)を活用した取り組みは、従来の鑑定方法に比べて精度と信頼性を大幅に向上させ、アート市場の透明性向上に大きく貢献しています。
伝統工芸作家との対話と工房訪問による事前確認
ARTerraceが取り扱う作品は、特に厳選された作家によって制作されたものです。中でも、人間国宝を含む伝統工芸作家が手掛ける作品が数多く含まれています。ARTerraceは、すべての作家と直接対話を行い、工房を訪れ、作品制作の過程を目にしてきました。この徹底した事前確認により、作家の個性や技術を理解したうえで、作品が制作される背景を把握し、贋作が入り込む余地がない状態を構築しています。
作品が完成する前からその制作過程を深く理解し、販売する作品の本物性を確信したうえで、3Dスキャンによるデジタル化を行います。この手法により、販売される作品は物理的な証明に加えてデジタルデータでも完全に記録され、作品の形状や質感、細部に至るまでを正確に保存します。
3Dスキャナー技術による詳細なデジタル化
従来、アート作品や工芸品の真贋判定には、目視鑑定や証明書に頼ることが多く、そのために贋作が市場に出回るリスクが残っていました。これに対してARTerraceは、独自の3Dスキャナー技術を使用し、作品を高精度でデジタル化します。この技術によって、作品の形状、質感、表面の微細なディテールまでが詳細に記録され、通常の鑑定では見逃される細部までが把握されます。
特に、手作業で作られた工芸作品は、作家独自の技法や特性が刻み込まれており、これを精緻にデジタル化することで、作品が持つ独自性を完全に保護します。人間国宝を含む作家の作品についても、その一つ一つの細部を正確にキャプチャすることで、贋作が物理的に生じるリスクを排除し、作品が唯一無二の存在であることを強固に証明します。
イーサリアムベースのNFTで真正性と所有権を保証
3Dスキャナーでデジタル化されたデータは、イーサリアムベースのNFTとしてブロックチェーン上に記録されます。NFTは、デジタル証明書として作品の真正性や所有権、取引履歴を不変の形で保証します。
従来の紙ベースの証明書で発生しがちな偽造や紛失のリスクが完全に解消され、デジタル化による透明性が向上します。
ブロックチェーン上でのNFTは改ざん不可能なため、取引履歴や所有権が不透明になることはなく、購入者やコレクターは常に作品の過去の履歴を確認でき、誰がどの時点で所有していたかがデジタル記録として保証されます。
作品が取引されるたびにNFTが自動更新され、所有権の変動が正確に記録されるため、購入者は安心して取引に参加できます。
二次流通市場での本物の証明 – 新技術で取引の信頼性を確立
二次流通市場では、作品の真正性が非常に重要です。コレクター同士が作品を再販する際、その作品が本物であることを証明する手段がなければ、取引に対する信頼が失われてしまいます。そのため、二次流通市場では、アート作品や工芸品の価値を正確に評価し、贋作のリスクを排除する仕組みが求められています。
ARTerraceが提供する二次流通システムは、伝統工芸作家との深い信頼関係、最新技術による高精度なデジタル化、そしてイーサリアムベースのNFTという3つの柱により、贋作問題に対して最も強力な対策を提供します。すべての作品は販売前から真贋が保証され、3Dスキャンによって正確に記録されたデータとNFTにより、作品の所有権や取引履歴が透明に管理されます。
今後もARTerraceは、アート市場の透明性と信頼性を向上させるため、最先端の技術を取り入れ続けます。日本の伝統工芸品を守りながら、贋作リスクを排除し、次世代に確実に受け継がれる新しいアート取引プラットフォームとしてさらに進化していくことでしょう。
技術と伝統が生み出す新しいアート市場
贋作問題は、世界中のアート市場にとって依然として深刻な課題です。これに対処するため、さまざまな事業者が革新的な技術を導入し、アート市場の透明性と信頼性を向上させる取り組みを進めています。特に、Web3やブロックチェーン、NFT、3Dスキャナーのような技術が注目されており、これらのデジタル技術は、アート作品や工芸品の真正性を保証し、所有権を透明かつ不変の形で管理する手段として普及しつつあります。
これまでのアート市場では、証明書や鑑定書が作品の真正性を保証する手段として使われてきましたが、これらは偽造や紛失のリスクを抱えていました。しかし、ブロックチェーン技術に基づくNFTや3Dスキャナーによる詳細なデジタルデータが導入されることで、贋作リスクが大幅に軽減され、コレクターやバイヤーが安心して取引に参加できる環境が整いつつあります。
こうした技術革新は、単に贋作リスクを排除するだけでなく、アート作品の価値をデジタル技術で保存し、次世代にわたって継承するという新しい可能性を切り開いています。伝統的なアート市場がより透明で信頼性の高いものとなり、グローバルな市場でも新しい価値が創出されています。
今後も、アート市場では技術と伝統の融合が進み、アーティストやコレクター、ギャラリー、オークションハウスにとって、より信頼できる取引環境が提供されることが期待されています。