2026年、中田真裕(なかた まゆ)さんの作品がヴェネチアで紹介されています。
中田さんが参加しているのは、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の開催時期に合わせて行われる「身体と物質のエスノグラフィー―加速社会における遅さと深さ」という展覧会です。ヴェネチア・ビエンナーレ本展とは別の企画ですが、同じ時期のヴェネチアで、現代工芸を「素材」「身体」「時間」という視点から捉え直す試みとして開催されています。
中田さんは、漆面を彫り、色漆(いろうるし)を重ねて研ぎ出す蒟醤(きんま)を軸に制作する漆芸家です。その作品では、約40層もの色漆や、数か月から1年に及ぶ制作時間そのものが表現と深く結びついています。
この記事では、中田真裕さんの略歴と技法、作品を見るポイント、そして2026年ヴェネチアでの展示について、一次情報をもとに整理します。
目次
中田真裕とは?香川漆芸から国際評価へ進んだ現代漆芸作家
中田真裕さんは、香川県漆芸研究所で漆芸を学び、蒟醤を主要な表現技法として制作を続ける現代漆芸作家です。現在は公益社団法人日本工芸会の正会員で、2019年には《Flame》でロエベ ファンデーション クラフト プライズ(LOEWE FOUNDATION Craft Prize)のファイナリストに選出されています。
(参照:中田真裕 作品一覧|公益社団法人日本工芸会)
(参照:Craft Prize 2019 Finalists|LOEWE FOUNDATION)
略歴|北海道から香川、そして金沢へ

中田さんは1982年、北海道生まれです。2005年に北海道大学水産学部を卒業し、その後、漆芸の道へ進みました。2017年に香川県漆芸研究所を修了し、2018年に金沢卯辰山工芸工房へ入所。A Lighthouse called Kanataの現行プロフィールでは、2021年に同工房を修了したと記載されています。
大学では水産学を専攻しており、その後に漆芸へ進んだことが確認できます。ただし、なぜ水産学から漆芸へ転じたのかという本人の動機については、今回確認した一次情報だけでは十分に追えませんでした。経歴から理由を推測せず、今後、本人への取材機会があれば聞いてみたい部分です。
日本工芸会では漆芸分野の正会員として、石川支部・漆芸部会に所属しています。《乾漆蒟醤水指 雷雲》《蒟醤鉢「風と海と」》《立雲》など、蒟醤を軸とする作品を継続的に発表していることも確認できます。
(参照:中田真裕 作品一覧|公益社団法人日本工芸会)
受賞歴・評価歴(一次確認事項の明記)
中田さんの活動を理解するうえで注目したいのが、国内の公募展と国際的なクラフト賞の双方で評価を受けてきた点です。
日本工芸会の公式記録では、2015年の第58回伝統工芸四国展と2016年の第59回伝統工芸四国展で、それぞれ奨励賞を受賞しています。また、2019年には第60回石川の伝統工芸展で「第60回記念 めいてつ・エムザ社長賞」、2025年には第65回石川の伝統工芸展で奨励賞を受賞しています。
(参照:中田真裕 受賞歴・作品一覧|公益社団法人日本工芸会)
金沢卯辰山工芸工房の公式プロフィールでは、2019年の第4回金沢・世界工芸トリエンナーレ「越境する工芸」で、大樋陶冶斎(おおひ とうやさい)審査員特別賞を受賞したことも確認できます。
(参照:中田真裕 作家紹介|金沢卯辰山工芸工房)

さらに2019年、ロエベ ファンデーション クラフト プライズでは《Flame》でファイナリストに選出されました。ロエベ財団の公式紹介でも、中田さんが従来の蒟醤より深く彫ることで、より複雑な表面表現を生み出している点に触れています。
(参照:Mayu Nakata / Flame|LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2019)

LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2019|LOEWE公式
ここで重要なのは、「国際賞のファイナリストだから価値がある」と単純に判断することではありません。国内の伝統工芸展で技法を磨きながら、同時に国際的なクラフトの文脈でも作品が紹介されている。その双方を見ることで、中田さんがどのような領域を行き来しながら制作しているのかが見えてきます。
蒟醤(きんま)とは?漆の層と研ぎが「時間」を可視化する技法
蒟醤とは、漆を塗り重ねた面に文様を彫り、その溝へ色漆を埋め、最後に表面を研いで文様を現す漆芸技法です。中田真裕さんの作品を理解するには、完成した模様だけでなく、色を重ね、彫り、埋め、研ぐという工程が表面の下に存在していることを知る必要があります。
定義ボックス|蒟醤とは
蒟醤(きんま)とは
竹や木、乾漆(かんしつ)などで形づくった器物に漆を塗り重ね、蒟醤剣(きんまけん)で文様を彫り、彫り込んだ溝へ色漆を埋め、表面を平らに研ぐことで文様を表す加飾技法です。
香川県漆芸研究所では、中国南方の「填漆(てんしつ)」の技法がタイやミャンマーへ伝わり、室町時代末期ごろ日本へ伝来したと説明しています。香川では玉楮象谷(たまかじ ぞうこく)らの仕事を通して発展し、現在の香川漆芸を代表する技法の一つとなっています。
中田さんは、この蒟醤を単に継承するだけではなく、彫りをより深くすることで、内部へ入れられる色漆の層を増やしています。本人の公式サイトでも、従来の蒟醤より深く彫り、より多くの色層を入れることで複雑な文様を生み出していると説明されています。
(参照:NAKATA Mayu Official|中田真裕公式サイト)
GO FOR KOGEI in Veniceの公式解説では、その方法がさらに具体的に紹介されています。中田さんの作品では、約40層の色漆が、総厚わずか約0.5mmの中に重ねられるとされています。そして制作期間は、短くても約4か月、作品によっては1年ほどに及びます。
(参照:Mayu Nakata|GO FOR KOGEI in Venice)
0.5mmという数字だけを見れば、ごく薄い層です。しかし、その中に約40層もの色が存在します。ここに中田作品の重要な特徴があります。
色は筆で一度に描かれているのではありません。塗られ、硬化し、彫られ、別の色を受け入れ、最後に研がれる。その結果として、内部にあった色の一部だけが表面へ現れます。
中田作品では、研ぐことは単なる仕上げではなく、内部に蓄積された色を選び出す造形行為でもある。そう考えると、表面に現れた模様を「絵柄」として見るだけでなく、漆の層がつくる断面として見ることができます。
蒟醤そのものの工程や、沈金(ちんきん)・蒔絵(まきえ)・螺鈿(らでん)との違いについては、上の記事で詳しく整理しています。
技法比較表|蒟醤・沈金・存清・乾漆
中田さんの技法を理解するために、蒟醤と、関連して語られることの多い沈金・存清(ぞんせい)・乾漆を整理します。なお、最後の列は技法の優劣を示すものではなく、この記事で作品を見る際の鑑賞ポイントです。
| 技法 | 工程の要点 | 代表的な系統・用途 | 本記事での鑑賞ポイント |
|---|---|---|---|
| 蒟醤(きんま) | 漆面を彫り、溝へ色漆を埋め、表面を研ぎ出す | 香川漆芸を代表する技法の一つ | 彫りの深さと色層が、最終的な文様へどう現れているかを見る |
| 沈金(ちんきん) | 漆面を線や点で彫り、金銀の箔や粉を入れる | 輪島塗などで知られる | 彫りによる線や点と、金属粉・箔による光の関係を見る |
| 存清(ぞんせい) | 色漆で文様を描き、輪郭や細部を線彫りし、代表的な方法では彫り口へ金粉・金箔を入れる | 香川の三技法の一つ | 色漆による描写と、線彫りによる輪郭の関係を見る |
| 乾漆(かんしつ) | 麻布などを漆で貼り重ね、素地を成形する方法などがある | 立体造形や器物の素地、仏像制作など | 木地とは異なる、布と漆によって成立する形態そのものを見る |
中田さんの日本工芸会での作品名を見ると、《乾漆蒟醤水指 雷雲》《乾漆蒟醤盛器「吐霧」》など、「乾漆」と「蒟醤」を併記した作品が複数確認できます。
つまり、形を成立させる素地の技法と、その表面をつくる加飾技法を一体として見る必要があります。
ここで「40層も塗っているから優れている」と結論づけるのは適切ではありません。工芸にかかった手間や時間は、それだけで作品価値を決める基準ではないからです。
ただし中田作品の場合、制作期間中に変化する記憶や印象まで作品へ取り込まれていることをGO FOR KOGEIが解説しています。
その意味では、長い制作時間が単なる制作上の負担ではなく、作品の内容そのものに関係していると読むことができます。
ヴェネチアでの展示は「ビエンナーレ本体」なのか?一次情報で正確に読む

冒頭でも触れた通り、中田真裕さんが参加する「身体と物質のエスノグラフィー」は、ヴェネチア・ビエンナーレ本展とは別の企画です。ここでは、その位置づけを一次情報からもう少し詳しく整理します。
本展は、ビエンナーレの日本館展示でも、運営団体が公式に認定するコラテラル・イベントでもありません。第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展と同じ時期にヴェネチアで開催される、認定NPO法人趣都金澤主催の独立した展覧会です。
ビエンナーレ公式では、2026年の枠組みとして100の公式な国別参加と31のコラテラル・イベントを公表しています。「身体と物質のエスノグラフィー」はその一覧には含まれていません。一方、GO FOR KOGEIは本展を「第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 同時開催」と案内し、英語では「Presented in parallel with(並行して開催)」と表現しています。
(参照:National Participations and Collateral Events of the Biennale Arte 2026|La Biennale di Venezia)
(参照:Ethnography of the Body and Material|GO FOR KOGEI)
展覧会概要|「身体と物質のエスノグラフィー―加速社会における遅さと深さ」
中田さんが参加している展覧会の英語タイトルは「Ethnography of the Body and Material — Slowness and Depth in an Accelerated Society」です。日本語では「身体と物質のエスノグラフィー―加速社会における遅さと深さ」とされています。
会期は2026年5月9日から11月22日までで、火曜日は休場。会場はイタリア・ヴェネチアのパラッツォ・ピザーニ・サンタ・マリーナ(Palazzo Pisani Santa Marina)です。
開館時間は9月30日までが11時〜19時、10月1日から11月22日までは10時〜18時と主催者から発表されています。
キュレーターはGO FOR KOGEIアーティスティックディレクターの秋元雄史氏。
出展するのは、シゲ・フジシロ、川井雄仁、コムロタカヒロ、桑田卓郎、三嶋りつ惠、牟田陽日(むた ようか)、中田真裕、沖潤子、舘鼻則孝(たてはな のりたか)、綿結(わた ゆい)の10名です。
この展覧会が扱っているのは、単なる「日本の工芸紹介」ではありません。
主催者は、工芸を独立したジャンルとして囲い込むのではなく、素材への深い関与、身体知、反復される手作業を通して、現代美術そのものを読み直すための視点として位置づけています。
速度や即時性が重視される社会に対して、素材と身体が持つ異なる時間を提示する。それが「加速社会における遅さと深さ」という副題の背景です。
(参照:Ethnography of the Body and Material — Slowness and Depth in an Accelerated Society|GO FOR KOGEI)
「参加」という言葉の解像度
ヴェネチアで作品が紹介される意味は、「ビエンナーレ」という名称だけでなく、どのような文脈の中で作品が選ばれているのかを見ることで、より具体的になります。
ヴェネチアでは、ビエンナーレ本展の開催期間に、日本館をはじめとする公式の国別参加や公式コラテラル・イベントに加え、美術館、財団、ギャラリー、文化団体などによるさまざまな展覧会が同時期に開催されます。
そのため、「ヴェネチアで展示されている」という事実だけでなく、主催者、キュレーター、展覧会のテーマまで見ることで、作品がどのような視点から紹介されているのかが分かります。
今回、中田真裕さんが参加する展覧会は、日本館やビエンナーレ公式のコラテラル・イベントとは異なる独立した企画です。
一方で、秋元雄史氏のキュレーションのもと、中田さんの漆芸が「素材」「身体」「時間」という問いとともに紹介されていることは、本展を理解するうえで重要なポイントです。
約40層の色漆を重ね、彫り、研ぎながら長い時間をかけて作品をつくる中田さんの制作は、「加速社会における遅さと深さ」という展覧会全体のテーマとも自然につながります。
どの制度の枠に属しているかだけでなく、なぜこの場所で、この作家の作品が選ばれているのかまで見ることで、展覧会と作品の関係をより深く理解できます。
なお、2026年の第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展では、日本の公式な国別参加として、日本基金がコミッショナーを務め、荒川ナッシュ医(Ei Arakawa-Nash)による《Grass Babies, Moon Babies》が日本館で展開されています。今回のGO FOR KOGEIによる展覧会とは、それぞれ異なる主催・枠組みで開催されています。
(参照:Japan — Grass Babies, Moon Babies|La Biennale di Venezia)
出品作品|《サウンドスケープ》《ミラージュ》
中田さんのヴェネチアでの出品作品については、主催者側の公開情報に表記の違いがあるため、確認する際には注意が必要です。
展覧会開幕時に認定NPO法人趣都金澤が公開した展示風景では、《サウンドスケープ》(2024)と《ミラージュ》(2026)が中田さんの展示作品として紹介されています。
一方、2026年9月時点で確認できるGO FOR KOGEI in Venice特設サイトでは、《Mirage》(2026)と《Thunderclouds》(2021)が「展示中(原文表記:on exhibit)」と記載されています。
(参照:Mayu Nakata / Works|GO FOR KOGEI in Venice)


《Mirage》を見る際に意識したいのは、完成した文様だけではありません。
GO FOR KOGEIは、中田さんの作品について、雷、雲、飛ぶ鳥など、実際の体験から残った「記憶」を色の層として表していると説明しています。また、最低でも4か月、場合によっては1年ほど続く制作期間中の日々の変化が作品へ入り込み、最初の記憶そのものにも「揺らぎ」が生じるとしています。
(参照:Mayu Nakata|GO FOR KOGEI in Venice)
ここには、今回の展覧会テーマである「遅さと深さ」と中田作品が接続する理由が見えてきます。
約40層をつくるためには、それぞれの層に必要な工程と、その間に経過する時間があります。
その間、最初に目にした雲の記憶も、作家自身の感覚も変わり得ます。中田さんの作品における「時間」は、単に「制作に長期間かかった」という意味だけでなく、変化する記憶を抱えたまま制作を続ける時間として読むことができます。
中田真裕氏の作品はどこで見て、どう評価すればいいのか?
中田真裕さんの作品を見る際は、「彫りが細かいか」「仕上げが均一か」といった技能の優劣だけに目を向けるのではなく、色層、研ぎ、文様と形態、見る角度、制作時間を一体として見ることで、作家固有の表現が理解しやすくなります。
鑑賞・評価チェックリスト
現代漆芸として中田作品を見るとき、次のような順番で観察すると、作品の構造が見えやすくなります。
- 色そのものではなく、色と色の境界を見る:異なる色がどこで現れ、どのように接しているかを見ると、多層の漆を研ぎ出す構造を意識できます。
- 彫りが生み出す色層を見る:細かさだけで評価せず、彫りの深さがどのような色の重なりにつながっているかを見ます。
- 研ぎによって何が表面へ現れているかを見る:均一さを評価するのではなく、内部の色をどのように露出させているかに注目します。
- 文様と立体形状を一緒に見る:曲面に沿って文様がどう流れ、見る位置によってどの部分が隠れ、現れるのかを確認します。
- 近景と遠景を往復する:近くでは細かな色層を、少し離れてからは作品全体の大きな動きを見ます。
- 制作時間を背景情報として見る:約40層、4か月から1年という制作時間が、記憶やモチーフの変化とどう結びついているかを考えます。
- 展示歴・受賞歴は一次情報へ戻る:作品を購入・収集する場合は、作家プロフィールだけでなく、美術館、日本工芸会、賞の主催者などの公式情報も確認します。
GO FOR KOGEIは、中田作品が鑑賞者の位置によって異なる表情を見せることにも触れています。正面から一点を見て終わるのではなく、可能な展示環境であれば身体を動かし、角度を変えて見ることも重要です。
(参照:Mayu Nakata|GO FOR KOGEI in Venice)
工芸作品全般をどう見ればよいか迷う場合は、素材、形、表面、技法、光などの観点から鑑賞方法を整理した上の記事も参考になります。
作品を見られる場・取扱いギャラリー
中田さんの作品は、日本工芸会の展覧会や美術館の企画展のほか、ギャラリーを通じても紹介されてきました。
A Lighthouse called Kanataでは現在も中田真裕さんの作家ページが公開されており、2025年制作の作品まで掲載されています。2024年には同ギャラリーで個展「The Skies Above – 中田真裕の蒟醤」が開催されました。作品の在庫や購入可否は変動するため、個別作品については最新情報をギャラリーへ確認する必要があります。
(参照:中田真裕|A Lighthouse called Kanata)
購入を検討する場合、価格だけでなく、作品名、制作年、素材・技法、サイズ、来歴(プロヴェナンス)、展覧会歴、付属資料なども確認しておきたいところです。
価格は作品のサイズ、制作年、販売経路などによって異なるため、公開情報だけから相場を推測することは避けるべきです。
作家ものの工芸作品を購入する際の、来歴、作品状態、共箱(ともばこ)、購入先などの確認方法については、上の記事で詳しく解説しています。
また、ホテル、店舗、オフィスなどで漆芸作品の展示を検討する場合は、作品自体だけでなく、照明、設置方法、温湿度、メンテナンス、作家・ギャラリーとの調整まで含めて計画する必要があります。
工芸ジャポニカでは、工芸作品・漆芸作品を空間へ取り入れる際の企画や、作家・工房とのコラボレーションについてもご相談を受け付けています。ただし、特定作家の作品在庫や仲介を保証するものではありません。作品購入については、作家本人または正規の取扱先で最新情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
中田真裕さんの技法、経歴、ヴェネチアでの展示について、検索時に疑問になりやすい点を簡潔に整理します。
- Q1. 中田真裕はどんな技法を使う作家ですか?
- 主に蒟醤(きんま)を用いる現代漆芸作家です。作品によっては乾漆による素地も用い、漆面を深く彫って複数の色漆を重ね、研ぎ出すことで複雑な色彩を表現しています。
- Q2. 中田真裕はヴェネチア・ビエンナーレ本体や日本館に出展しているのですか?
- いいえ。中田さんが参加する「身体と物質のエスノグラフィー」は、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展と同時期にヴェネチアで開催される独立展です。日本館やビエンナーレ公式のコラテラル・イベントではありません。
- Q3. 「身体と物質のエスノグラフィー」展はいつ、どこで見られますか?
- 2026年5月9日から11月22日まで、イタリア・ヴェネチアのパラッツォ・ピザーニ・サンタ・マリーナで開催されています。火曜日は休場です。開館時間などは来場前にGO FOR KOGEI公式情報をご確認ください。
- Q4. 蒟醤(きんま)と沈金・存清はどう違いますか?
- 蒟醤は漆面を彫った溝へ色漆を埋めて研ぎ出す技法です。沈金は彫った線や点へ主に金銀の箔や粉を入れます。香川の代表的な存清は、色漆で文様を描いた後、輪郭などを線彫りし、彫り口へ金粉・金箔を施します。
- Q5. 中田真裕の作品では何層くらいの漆が使われていますか?
- GO FOR KOGEI in Veniceでは、中田さんの方法について、約40層の色漆を総厚約0.5mmに重ねると説明しています。これはすべての作品が必ず同じ仕様という意味ではなく、同展による作家技法の解説として示された数値です。
- Q6. ロエベ ファンデーション クラフト プライズと中田真裕の関係は?
- 中田さんは2019年、《Flame》でロエベ ファンデーション クラフト プライズ(LOEWE FOUNDATION Craft Prize)のファイナリストに選出されています。ロエベ財団の公式記録でも確認できます。
- Q7. 中田真裕の作品はどこで見る・購入できますか?
- 日本工芸会の展覧会や美術館・ギャラリーで作品が紹介されてきました。A Lighthouse called Kanataでは現在も作家・作品ページが公開されていますが、在庫や販売可否、価格は変動するため、最新情報を各取扱先へ確認してください。
- Q8. コレクターやギャラリストは中田真裕の作品のどこを見るべきですか?
- 彫りの細かさだけでなく、色層の現れ方、研ぎによる色の境界、文様と立体形状の関係、見る角度による変化、そして制作時間とモチーフの関係を見ることが重要です。
まとめ|肩書きではなく技法から作家を読む
中田真裕さんは、香川県漆芸研究所で漆芸を学び、金沢卯辰山工芸工房を経て、蒟醤を軸とする表現を展開してきた現代漆芸作家です。日本工芸会正会員として制作を続ける一方、2019年には《Flame》でロエベ ファンデーション クラフト プライズのファイナリストとなり、国内外の工芸・現代美術の文脈で作品が紹介されています。
その特徴を最も端的に表しているのが、より深く彫り、多層の色漆を入れ、研ぐことで内部の色を表面へ現すという蒟醤の展開です。GO FOR KOGEIの解説にある約40層・総厚約0.5mmという具体的な数字は、その密度を理解する手掛かりになります。
そして2026年のヴェネチア展は、素材、身体、制作の遅さという展覧会の問いの中に中田作品が置かれていることに注目すると、より深く読み解くことができます。
工芸作品では、ときに「どの賞を取ったか」「どの国際展で紹介されたか」が先に語られます。しかし、その経歴だけでは作品そのものを見ることはできません。
工芸ジャポニカ編集部より
中田真裕さんの作品を見る機会があれば、まず一度、模様の美しさから少し視点を広げてみてください。その色はどこから現れたのか。表面の下には何層の漆があるのか。曲面を回り込む文様は、見る位置によってどう変わるのか。そして、その表面が完成するまでにどれほどの時間が流れているのか。
「高度な技術だからすごい」と結論づけるのではなく、技法を知った後でもう一度作品を見る。そこで見え方が変わることこそ、工芸を知る面白さの一つだと考えています。
中田さんの作品の場合、漆の層に残されているのは色だけではありません。塗り、硬化を待ち、彫り、色を入れ、研ぐ。その間に変化していった記憶まで含めて見ることで、「素材と時間」というこの作家のもう一つの輪郭が見えてきます。





