福島県の伝統工芸品である「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」は、独特の二重焼きの構造や青ひび模様で知られています。丈夫さと美しさを兼ね備えた焼き物として、日常の食器から贈り物まで幅広く親しまれてきました。

しかし、どのような特徴があり、どんな基準で選べばよいかを迷う方も少なくありません。この記事では、大堀相馬焼の魅力をわかりやすく紹介し、選び方や暮らしの中での活用方法について解説します。

大堀相馬焼とは?


大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)は、福島県浪江町大堀地区で江戸時代初期から続く伝統的な陶磁器です。独自の技法と意匠により「相馬野馬追」の文化と結びつき、地域の歴史や精神性を反映した焼き物として知られています。

二重構造の「二重焼き」、駆け抜ける「走り駒」、独特の「青ひび」といった象徴的特徴を備え、実用性と美術性を兼ね備えた作品群が特徴です。東日本大震災以降は作り手が分散しながらも、産地組合や新世代の作家が復興と継承に取り組んでおり、全国の展示会やオンラインショップでも購入が可能になっています。

大堀相馬焼における三つの象徴

大堀相馬焼の代名詞ともいえるのが、三つの象徴的特徴です。第一は「二重焼き」で、内側と外側を二重に焼き上げる独自技法により、保温性・断熱性に優れた器が生まれます。茶碗や徳利に多く見られ、熱いものを入れても持ちやすく、日常使いに適しています。

第二は「走り駒」と呼ばれる、躍動感ある馬の絵付けです。相馬野馬追を象徴し、地域文化と結びついた装飾として高い人気を誇ります。第三は「青ひび」と呼ばれる独特の貫入模様で、釉薬に入った細かなひび割れが青緑色に発色し、景色のような深みを生み出します。

これら三要素が重なり合うことで、大堀相馬焼は実用性と芸術性を兼ね備えた唯一無二の工芸品として評価されているのです。

いま買える作り手とブランドの傾向

震災と原発事故により大堀地区からの移転を余儀なくされた後も、多くの窯元や作家が活動を続けています。現在は福島県内外に工房を構えつつ、大堀相馬焼協同組合を中心に連携し、伝統の技を守りながら現代的な感覚を取り入れた作品を展開しています。

ブランドの傾向として、従来の茶碗・徳利・湯呑みといった定番品に加え、モダンなカップや食器、インテリア向けの花器などが増えている点が挙げられます。オンラインショップやクラウドファンディングを活用し、若手作家が新しい顧客層を開拓する動きも活発です。

また、海外向けに英語サイトを整備する取り組みも進んでおり、国内外のコレクターにとって入手しやすい環境が整いつつあります。

大堀相馬焼の物語と歴史

大堀相馬焼は、福島県浜通りの浪江町大堀地区で17世紀初頭に始まったとされる焼き物です。江戸時代には相馬藩の庇護を受け、日常食器として領内に広く普及しました。明治以降は庶民的な器として親しまれ、20世紀に入ると観光土産や贈答品としても流通。

2011年の東日本大震災と原発事故で大堀地区からの避難を余儀なくされましたが、作り手たちは県内外に拠点を移し活動を継続しました。現在では復興と継承の象徴として注目を集め、産地は新しい形で広がりを見せています。

起源〜江戸時代:日常器としての広がり

大堀相馬焼の始まりは17世紀、藩政下での窯業奨励にさかのぼります。浪江町大堀地区の豊富な陶土と燃料資源を背景に窯が開かれ、生活に密着した茶碗や徳利、皿が生産されました。

藩主の後押しを受けて「相馬焼」として広まり、走り駒の意匠や青ひび模様を特徴とする独自の作風が確立されます。庶民の日用品として重宝される一方、贈答や祭礼にも使われ、地域文化と深く結びつきました。

江戸後期には多くの窯元が成立し、浜通り全体に出荷されるなど生産規模は拡大。地元の生活道具でありながら、藩を象徴する焼き物としての地位を確立したのがこの時期の特徴です。

近代以降:震災を経た継承と再出発

明治以降、大堀相馬焼は観光地や都市部で販売され、庶民的な工芸品として親しまれました。昭和期には量産化と土産物需要が高まり、二重焼きや走り駒の器は家庭や旅館で広く用いられました。

しかし2011年の東日本大震災と原発事故により、大堀地区の窯元は全て避難を余儀なくされます。それでも作り手たちは二本松や会津などへ移り、工房を再建し生産を継続。

クラウドファンディングやオンライン販売といった新しい流通経路も取り入れ、伝統と革新を両立する動きが進みました。震災を乗り越えた大堀相馬焼は、復興の象徴として全国的な注目を集めています。
参考:福島県双葉郡浪江町の大堀地区で生産される焼物の総称で、江戸時代からの歴史を有しています。

現在の大堀相馬焼の産地

現在、大堀相馬焼の生産拠点は浪江町の復興拠点を中心に、二本松市や会津若松市など福島県内各地に広がっています。浪江町では「道の駅なみえ」や復興拠点施設にギャラリーや窯場が整備され、地元回帰の動きが進行中です。

二本松には複数の窯元が再建され、体験型工房や展示販売を通じて観光客や県外ファンを迎えています。さらに会津若松では歴史ある漆器産業との連携が模索され、地域を越えた工芸交流の場となりつつあります。

加えて首都圏やオンラインでも販売拠点が整い、従来の「一地域の産地」から「分散型のネットワーク産地」へと進化しました。この広がりは、震災を経て新たに形づくられた大堀相馬焼の現在地を示しています。

大堀相馬焼の制作工程と技法

大堀相馬焼の魅力は、単なる意匠にとどまらず、二重焼きや走り駒、青ひび模様を生み出す高度な技術に支えられています。その制作工程は、土の選定から成形、焼成、絵付け、釉薬、仕上げに至るまで複数の工程が連なり、それぞれに職人の熟練した手仕事が反映されます。

特に二重焼きは高度な成形技術を必要とし、他産地には見られない独自性を確立しています。また走り駒の絵付けは藩の文化と結びついた象徴的な装飾であり、青ひびは釉薬と焼成の妙から生まれる景色です。

これらの技法は一子相伝的に継承され、現代でも職人たちの研鑽により新たな表現へと進化を遂げています。

土作りと成形(二重焼きの技術)


大堀相馬焼の第一歩は土作りにあります。浪江周辺の陶土は鉄分を含み、焼成すると落ち着いた色味を生み出します。この土を精製し、ロクロで成形する段階で特徴的な「二重焼き」が施されます。

内側と外側の器を別々に作り、後から重ね合わせることで、保温性や耐久性に優れた二重構造の器が完成します。この技術は高度なロクロさばきを要し、わずかな誤差でも歪みや割れにつながるため、熟練した職人の経験が不可欠です。

二重焼きは実用面での利便性を備えつつ、独特の厚みと重層感を作品に与えるため、美術的な価値も高まります。大堀相馬焼の中でも最も個性を表す要素であり、産地独自の存在感を示しています。

絵付けと走り駒の表現


大堀相馬焼を象徴する「走り駒」は、筆描きによる力強い馬の姿で、相馬野馬追の伝統と結びついています。職人は素焼きした器に素早く筆を走らせ、勇壮な馬の姿を描き出します。

線には迷いがなく、躍動感を宿す筆致は熟練の技の賜物です。走り駒は単なる装飾にとどまらず、地域の精神性を映し出す意匠として古くから親しまれてきました。

現代では従来の黒一色だけでなく、多彩な表現や新しい図案を取り入れる作家も増えています。また、伝統の筆致を守りながらモダンな構成を試みる動きもあり、時代に応じた進化を遂げています。走り駒は買い手にとっても「相馬焼らしさ」の象徴であり、コレクションの価値を高める要素となっています。

釉薬・焼成と青ひび模様


大堀相馬焼のもう一つの特徴である「青ひび」は、釉薬と焼成によって自然に生まれる模様です。釉薬をかけ高温で焼成すると、器表面に細かな貫入が入り、それが青緑色に発色します。

このひび割れ模様は一つとして同じものがなく、偶然性と自然美が重なった景色として高く評価されています。釉薬の調合や窯の温度管理は職人ごとに異なり、それぞれの窯元の個性を示すポイントです。

焼成後にさらに染料を浸透させてひびを強調する手法もあり、景色の深みを増すことができます。青ひびは大堀相馬焼を他の産地と一線を画す特徴であり、鑑賞性と実用性を兼ね備えた魅力を引き出す重要な技法といえるでしょう。

大堀相馬焼の楽しみ方

大堀相馬焼は、日常で使える実用陶器でありながら、美術的な要素も強く備えた工芸品です。そのため、暮らしの中でお茶碗や湯呑みとして活用する楽しみ、棚や床の間に飾って鑑賞する楽しみ、さらに歴史や作家ごとの違いをコレクションする楽しみと、多様な味わい方があります。

二重焼きの実用性、走り駒の象徴性、青ひびの景色といった三要素が、それぞれ異なる角度から魅力を放つため、使う人・見る人によって異なる価値を感じられるのが特徴です。

日常使いの器としての魅力

大堀相馬焼は実用品として非常に優れています。二重焼きの構造は保温・断熱性に優れ、熱い飲み物を入れても持ちやすく、日常生活での快適性を高めます。湯呑みやお茶碗はもちろん、徳利やぐい呑みも人気で、日々の食卓に温かみを添えてくれます。

また、青ひびの景色は使うほどに味わいを増し、経年変化が楽しめる点も特徴です。現代では電子レンジや食洗機対応のシリーズを開発する窯元もあり、伝統と利便性を両立させています。

日常で使い続けることによって、器の持つ魅力を身近に感じられるのが大堀相馬焼の大きな楽しみ方といえるでしょう。

鑑賞とインテリアとしての楽しみ

走り駒の絵付けや青ひび模様は、器そのものを美術品のように鑑賞する価値を持っています。茶碗や徳利を飾ると、絵柄の躍動感やひびの繊細な景色が空間を引き締め、インテリアとしても存在感を発揮します。

特に光の当たり方によって表情が変わる青ひびは、時間帯や角度で見え方が異なり、飽きることがありません。近年では花器やオブジェといったインテリア性の高い作品も登場しており、和室だけでなく洋風空間にも調和する点が魅力です。

器を使うだけでなく「飾って愛でる」楽しみ方を実践することで、大堀相馬焼は暮らしに深みを加える工芸品となるのです。

コレクションと投資価値

大堀相馬焼はコレクションの対象としても高い人気を誇ります。伝統的な意匠を持つ作品から、現代作家の新しい挑戦まで幅広く存在するため、テーマを絞った収集も楽しめます。

例えば「走り駒の筆致の違い」「青ひびの景色の変化」「二重焼きの造形美」など、観点を決めて収集すると奥行きが生まれます。また、震災を乗り越えて活動を続ける作家の作品は、ストーリー性が加わり、将来的な評価が期待できる点でも注目されています。

展覧会やオンラインショップを通じて新作を買い集めるほか、古作や限定品を探すコレクターも少なくありません。単なる消費財ではなく、文化資産として継承していく意味合いを持つのも大堀相馬焼コレクションの大きな魅力でしょう。

大堀相馬焼の保管とメンテナンス

大堀相馬焼は実用品として使える丈夫さを持ちながら、細かなひび模様や絵付けを守るためには適切な扱いが求められます。とくに二重焼きの構造や青ひびの貫入は、使い方によって表情が変わる繊細な要素です。

日常の洗浄や保管の工夫、湿度や光への配慮を心がけることで、長く美しさを保つことができます。また、欠けや割れが生じた場合には修理や塗り直しといった対応も可能です。ここでは日常管理から専門修理、業務利用のポイントまでを整理し、大堀相馬焼と長く付き合うための実践的な知識を紹介します。

日常の洗浄と保管の工夫

大堀相馬焼は普段使いに適した器ですが、長く使うためには日常の手入れが欠かせません。使用後は柔らかいスポンジで中性洗剤を使い、強い摩擦や金属たわしは避けるのが基本です。

青ひび模様は液体を吸いやすいため、長時間色の濃い飲み物を入れたままにするとシミが残ることがあります。そのため、使用後は早めに洗浄し、自然乾燥させると良いでしょう。保管時には直射日光を避け、通気性の良い場所で保管すると釉薬の変質を防げます。

食器棚にしまう際は、器同士がぶつからないように布や紙を挟むと欠け防止になります。小さな習慣が積み重なり、器の魅力を長持ちさせることにつながります。

欠けや割れの修理と対応方法

もし欠けや割れが生じた場合でも、大堀相馬焼は修理によって再び使えるようにすることが可能です。小さな欠けであれば、漆や金粉を用いた「金継ぎ」によって補修し、むしろ新たな美として楽しむこともできます。

大きなひび割れや欠損の場合は、専門の修理工房に依頼すると安全です。最近では大堀相馬焼の窯元や協同組合が修理相談窓口を設けており、器の状態に応じた最適な方法を提案してくれます。

修理を通じて器の寿命を延ばすだけでなく、器の物語がさらに豊かになる点も魅力です。修理跡を愛でるという文化的な価値観もあり、コレクターにとっては一層愛着を深めるきっかけとなるでしょう。

業務利用と耐久性の考え方

旅館や飲食店など業務用途でも大堀相馬焼は活用されています。二重焼きの器は保温性が高いため、温かい料理や酒器として重宝されますが、業務利用では耐久性とメンテナンスサイクルを意識することが重要です。

繰り返しの使用によって青ひびが深まり、景色として味わいが増す一方、欠けやすい口縁部には注意が必要です。業務向けには厚みのある器や強化設計の製品を選ぶと安心でしょう。

また、定期的に専門工房に点検や補修を依頼することで長期的に使用できます。業務利用で培われる使用感は、器そのものの魅力を引き出すとともに、利用者に「本物の器に触れた体験」を提供することにつながります。

大堀相馬焼の未来と発信の可能性

大堀相馬焼は震災を経て再生の道を歩み始めただけでなく、新しい形での発信にも挑戦しています。伝統的な技法を継承する一方、現代の生活様式に合う商品開発やデザインコラボを通じて、新しいファン層を獲得しています。

海外展示会やオンライン販売を通じた販路拡大も進み、国内にとどまらない認知度の向上が期待されています。ここでは産地振興の動きやデザイン連携、国際展開と後継者育成といった未来への取り組みを紹介し、大堀相馬焼が持つ新たな可能性を掘り下げます。

デザインコラボと新商品開発


近年、大堀相馬焼は従来の茶碗や徳利に加え、マグカップやカレー皿、洋食器など現代のライフスタイルに即した商品が増えています。JEANASISの新ブランド「eL」、櫻井翔「未来への言葉展 PLAYFUL!」、いわきFC、ももいろクローバーZなど、デザイナーや異業種ブランドとのコラボレーションによって、伝統の二重焼きや青ひびを活かしながら新しい形を創出し、若年層や海外の顧客層にも受け入れられています。

例えば青ひびの模様を活かした花瓶や、走り駒をモチーフにした豆皿などのインテリア雑貨も登場しています。黒照(クロテラス)シリーズでは雄勝硯とのコラボにより「和洋中どんなお料理やシチュエーションにもフィット」する現代的なデザインを実現し、「伝統工芸=古風」というイメージを刷新し、普段使いしやすい工芸品として生活に根づかせる動きが加速しています。

海外発信と国際市場での評価

大堀相馬焼は、欧米やアジア市場で「日本の復興と伝統の象徴」として高い評価を得ています。海外の展示会やミュージアムショップで紹介される機会も増え、走り駒や青ひびのユニークな意匠は現地の人々に強い印象を残しています。

オンラインショップでは英語対応が進み、国際配送や多言語での説明を整備する動きも見られます。価格帯は中級から高級品まで幅広く、ギフト需要やインテリア市場で人気が高まっています。

こうした国際的な発信は、大堀相馬焼が単なる地域工芸にとどまらず、日本文化を代表する存在として認知される契機となっているのです。

後継者育成と産地の未来

大堀相馬焼の持続的な発展には、後継者育成が欠かせません。震災後の再建過程で若手の参入が進み、工房では親子や地域外からの新規職人が技を学んでいます。

産地では研修制度や体験プログラムを整備し、ものづくりを志す人材を受け入れる仕組みを構築しています。さらに、学校教育や観光体験と連携することで、地域住民や次世代にも大堀相馬焼の魅力を伝えています。

こうした取り組みは産地を未来へとつなぐだけでなく、技法や文化を進化させる原動力にもなっています。伝統を守りつつも、新しい担い手と共に発展を続けることが大堀相馬焼の未来像といえるでしょう。

まとめ

大堀相馬焼は、二重焼きや走り駒、青ひびといった独自の技法と意匠に支えられ、地域文化と深く結びついた工芸品です。江戸期に庶民の器として広がり、近代以降も土産や生活器として愛され続け、震災を経てもなお再生と進化を遂げてきました。

現在は浪江を拠点としつつ二本松や会津などへ広がり、デザインコラボや海外発信を通じて新しい価値を獲得しています。実用・鑑賞・コレクションの多彩な楽しみ方があり、保管や修理を通じて長く付き合えるのも魅力です。大堀相馬焼は伝統を守るだけでなく未来を切り拓く工芸として、国内外でさらなる注目を集めていくでしょう。

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日本の伝統工芸の魅力を世界に発信する専門家集団です。人間国宝や著名作家の作品、伝統技術の継承、最新の工芸トレンドまで、幅広い視点で日本の工芸文化を探求しています。「Kogei Japonica 工芸ジャポニカ」を通じて、伝統と革新が融合する新しい工芸の世界をご紹介し、日本の伝統文化の未来を世界とつなぐ架け橋として活動を行っています。

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