【完全版】
伝統工芸品用語全集
金工 きんこう
金工とは、金属を加工して装飾品や工芸品を作る技術の総称です。日本では、古くから刀剣や仏具、茶道具などに用いられ、職人の手によって高度な技術が継承されてきました。金工には鋳物や鍛金、彫金、象嵌などさまざまな技法があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。
現在でも伝統的な技術が活かされながら、現代のデザインや用途に応じた新しい作品が生み出されています。

鋳物 ちゅうきん
鋳物(ちゅうきん)は、溶かした金属を型に流し込み、冷やして固めることで成形する技法です。主に鉄や銅、青銅などが使用され、茶釜や仏像、装飾品などが作られます。鋳物は、型のデザインによって複雑な形状を作ることが可能で、表面に独特の風合いや質感が生まれるのが特徴です。日本では南部鉄器や京銅器などが有名で、伝統的な工芸品として高い評価を受けています。
鍛金 たんきん
鍛金(たんきん)は、金属を叩いて成形する技法です。金属板を熱しながら槌(つち)で打ち延ばし、さまざまな形に加工していきます。
この技法は、鎚起(ついき)とも呼ばれ、茶道具や花器、仏具などの制作に用いられます。鍛金は、職人の手仕事によって金属の質感や模様が変化し、独自の風合いが生まれるのが特徴です。均一な厚みと美しい曲線を作るには高度な技術が求められます。
彫金 ちょうきん
彫金(ちょうきん)は、金属の表面に細かい模様や文字を彫る装飾技法です。専用の鏨(たがね)を使い、手作業で彫刻を施すことで、金属に独特の立体感と美しさを与えます。日本では刀の鍔(つば)や帯留め、アクセサリーなどの装飾に使われてきました。繊細なデザインや精緻な彫刻を施せるため、工芸品だけでなく、ジュエリー制作などにも広く用いられています。
象嵌 ぞうがん
象嵌(ぞうがん)は、異なる金属や素材を組み合わせて模様を作る装飾技法です。金属の表面に溝を彫り、そこに異種の金属をはめ込むことで、美しいデザインを生み出します。日本では「布目象嵌」や「高肉象嵌」などの技法があり、刀剣の鍔や装飾品に多く用いられてきました。象嵌によって生み出される模様は華やかで、伝統的な工芸品として高く評価されています。
鍍金 めっき
鍍金(めっき)は、金属の表面に薄い金属の層を施す技法です。金や銀、銅、ニッケルなどの金属を電気メッキや化学メッキなどの方法で表面にコーティングし、耐久性や装飾性を向上させます。日本では仏具や刀装具、アクセサリーなどに広く使われています。鍍金によって錆びにくくなり、美しい輝きを長く保つことができるため、現代の工業製品にも多く採用されています。
鋳造 ちゅうぞう
鋳造(ちゅうぞう)は、鋳物を作るための技術で、溶かした金属を型に流し込んで成形します。砂型や金型、石膏型など、用途に応じた型を使うことで、複雑な形状の製品を大量に作ることができます。伝統工芸品のほか、工業部品やアクセサリーの製造にも活用されており、金工の中でも最も古くから発展してきた技術の一つです。鋳造による作品は、複雑な形状を再現しやすく、耐久性のある製品を作ることができるのが特徴です。
切削 せっさく
切削(せっさく)は、金属を削って形を整える加工技術です。彫金や象嵌と異なり、手作業だけでなく機械を使って精密な加工を行うことが多く、工芸品から産業製品まで幅広く利用されています。旋盤やフライス盤、ドリルなどを用いて細かい加工を施し、寸法精度の高い仕上がりを実現できます。伝統工芸の分野では、刀剣の刃の研磨や装飾の仕上げに用いられたり、金属装飾品のパーツを作る際に用いられます。
研磨 けんま
研磨(けんま)は、金属の表面を磨いて滑らかにする技法です。やすりや砥石、バフを使って表面の凹凸を取り除き、光沢のある仕上がりにします。鏡面仕上げやマット仕上げなど、研磨の方法によって異なる質感を出すことが可能です。刀剣の仕上げや、アクセサリーの艶出しなどに欠かせない工程であり、製品の美しさや耐久性を向上させる重要な技術です。
鎚起 ついき
鎚起(ついき)は、金属の板を槌(つち)で叩きながら成形する技法で、鍛金の一種です。金属を繰り返し叩くことで硬度を増しながら、自由な形状を作り上げることができます。特に銅や銀を使った茶器や花器、仏具の製作に用いられ、独特の風合いと手仕事ならではの温かみが魅力です。鎚起による作品は、使い込むほどに味わいが増し、経年変化を楽しむことができます。
地金 じがね
地金(じがね)は、加工や装飾の基となる金属素材のことを指します。純金や純銀、銅、真鍮(しんちゅう)などが地金として使われ、これを鍛金や鋳造、切削などの技法で加工し、さまざまな工芸品が作られます。地金の種類によって仕上がりの質感や強度が異なり、用途に応じた選択が重要になります。伝統工芸品だけでなく、ジュエリーや工業製品にも幅広く活用される基本的な素材です。
漆芸 しつげい
漆芸(しつげい)は、漆(うるし)を使って器や家具、装飾品を仕上げる日本の伝統工芸技術です。漆は防水性や耐久性に優れ、美しい光沢を持つため、古くから茶道具や仏具、装飾品などに用いられてきました。蒔絵や螺鈿(らでん)など、さまざまな技法があり、それぞれ独自の表現が可能です。漆は時間とともに深みを増し、使い込むほどに美しさが際立つのが特徴です。
蒔絵 まきえ
蒔絵(まきえ)は、漆の上に金粉や銀粉を蒔いて模様を描く装飾技法です。筆で漆を塗った部分に金属粉を蒔き、乾燥させた後に磨き上げることで、繊細で華やかなデザインが完成します。江戸時代には高級な調度品や武具の装飾として広く用いられました。現代でも、漆器やアクセサリー、文具などに蒔絵が施され、日本ならではの優雅な美しさを演出しています。
螺鈿 らでん
螺鈿(らでん)は、貝殻の真珠層を薄く削り、漆の表面に埋め込んで装飾する技法です。アワビや夜光貝などの貝殻を使い、光の加減によって色彩が変わる美しい輝きを作り出します。螺鈿は、中国から伝わり、日本では平安時代から寺院の調度品や楽器の装飾に用いられました。繊細な模様を描く高度な技術が必要で、現在でも高級な漆器や家具に施されることが多い技法です。
堆朱 ついしゅ
堆朱(ついしゅ)は、漆を何層にも塗り重ねた後、彫刻を施して模様を浮かび上がらせる技法です。特に朱漆を使ったものが多く、立体感のある仕上がりが特徴です。中国で発展し、日本にも伝わり、茶道具や仏具、装飾品に用いられました。漆を厚く塗り重ねるには時間と手間がかかり、完成までに数ヶ月から数年を要することもあります。独特の風格と重厚感が魅力の技法です。
乾漆 かんしつ
乾漆(かんしつ)は、布や和紙を漆で固めて成形する技法です。主に仏像や茶道具の制作に用いられ、木材の芯を使わずに、漆と布を主な材料として軽量ながら丈夫な仕上がりになります。奈良時代の仏像彫刻に用いられ、細部まで繊細な表現が可能です。木材よりも変形しにくく、耐久性が高いため、現在でも伝統的な仏像や芸術作品の制作に取り入れられています。
拭き漆 ふきうるし
拭き漆(ふきうるし)は、木地に漆を塗り込み、余分な漆を拭き取ることで木目を活かす技法です。木の自然な風合いを引き立てながら、漆の光沢と耐久性を加えることができます。茶道具や家具、食器などに広く用いられ、漆の層が薄いため、軽やかで使いやすい仕上がりになります。漆の塗りと拭きを繰り返すことで、深みのある色合いと滑らかな質感を生み出します。
木地呂塗 きじろぬり
木地呂塗(きじろぬり)は、透き漆を何度も塗り重ねて研ぎ出すことで、透明感のある光沢を生み出す技法です。拭き漆に似ていますが、より手間をかけて研ぎ上げることで、奥行きのある美しい艶が得られます。漆の色合いが木地の模様と調和し、落ち着いた風格のある仕上がりになります。主に茶道具や高級家具に用いられ、使い込むほどに深みが増すのが魅力です。
研出し とぎだし
研出し(とぎだし)は、蒔絵や漆塗りの仕上げ技法の一つで、塗り重ねた漆を研ぎ出すことで模様を浮かび上がらせる方法です。漆の層に金粉や銀粉を散りばめた後、表面を磨くことで、金属の輝きが透けて見える美しい仕上がりになります。蒔絵の中でも特に高級な技法として知られ、華やかでありながらも奥深い質感を持つ作品が作られます。
髹漆 きゅうしつ
髹漆(きゅうしつ)は、漆を塗る工程全般を指す言葉で、下地作りから仕上げまでの技法を含みます。漆器の制作では、何層にも漆を塗り重ね、研磨しながら仕上げていくため、高度な技術が求められます。日本の伝統工芸において、髹漆の技術は重要な要素の一つであり、職人の熟練度が作品の質に大きく影響します。
漆絵 うるしえ
漆絵(うるしえ)は、漆を絵の具のように使って模様や絵柄を描く技法です。色漆を用いたり、金粉や銀粉を組み合わせることで、多彩な表現が可能になります。蒔絵と異なり、絵画的な表現が特徴で、伝統的な漆器だけでなく、屏風や工芸作品にも用いられます。筆を使って自由に描けるため、職人の個性が反映される技法です。
金粉 きんぷん
金粉(きんぷん)は、蒔絵や漆芸の装飾に用いられる微細な金属粉です。金粉を蒔くことで、漆の表面に華やかな輝きを加え、高級感のある仕上がりになります。金の純度や粒子の大きさによって光沢や色合いが異なり、作品の表情を変えることができます。日本の漆芸では、金粉を使った豪華な装飾が特徴的で、工芸品や仏具、茶道具などに多く用いられています。
陶磁器 とうじき
陶磁器(とうじき)は、土を成形して焼き上げた器や装飾品の総称で、日本では古くから日常生活や芸術の一部として発展してきました。陶器と磁器に大別され、それぞれに異なる特徴があります。
陶器は土の風合いを活かした温かみのある質感が魅力で、磁器は高温で焼かれるため硬くて透光性があるのが特徴です。釉薬や焼成の方法によって、さまざまな表情が生まれます。
轆轤 ろくろ
轆轤(ろくろ)は、陶磁器の成形に用いられる技法です。手動の「蹴轆轤(けろくろ)」や電動の「電動轆轤」があり、職人が細やかな調整を加えながら、均整の取れた器を作ります。轆轤を使うことで、薄く滑らかな曲線を持つ器を作ることができ、茶碗や皿、壺など多くの陶磁器の成形に用いられています。熟練の技が求められる伝統的な技法です。
手捻り てびねり
手捻り(てびねり)は、轆轤を使わずに手作業で粘土を成形する技法です。指先で粘土を押し広げたり、紐状にした粘土を積み重ねたりして形を作ります。自由な形状が作れるため、個性的で温かみのある作品に仕上がるのが特徴です。初心者でも扱いやすい方法であり、陶芸体験などでよく用いられます。
釉薬 ゆうやく
釉薬(ゆうやく)は、陶磁器の表面にかけるガラス質のコーティング剤です。焼成時に溶けて器の表面を覆い、艶や防水性を持たせる役割があります。釉薬の種類によって色や質感が変わり、透明な「透明釉」や深みのある「青磁釉」、落ち着いた色合いの「鉄釉」など、多様なバリエーションが存在します。
焼成 しょうせい
焼成(しょうせい)は、陶磁器を窯で焼く工程を指します。焼成温度や時間によって器の強度や質感が変化し、一般的に、陶器は1,000〜1,200℃、磁器は1,200〜1,400℃の高温で焼かれます。焼成には「素焼き」と「本焼き」の2つの工程があり、それぞれ異なる役割を持っています。
素焼き すやき
素焼き(すやき)は、本焼きの前に行う低温焼成のことです。通常800℃前後で焼かれ、粘土を硬化させて扱いやすくする目的があります。素焼きの後に釉薬を施し、本焼きを行うことで完成した陶磁器が得られます。素焼きの段階では吸水性が高く、釉薬がしっかりと定着しやすい状態になっています。
本焼き ほんやき
本焼き(ほんやき)は、素焼き後に釉薬をかけた陶磁器を高温で焼成する工程です。一般的に1,100〜1,300℃の高温で焼かれ、釉薬が溶けて器の表面にガラス質の層を形成します。本焼きの温度や時間の調整によって、釉薬の発色や仕上がりの質感が大きく変わります。
化粧掛け けしょうがけ
化粧掛け(けしょうがけ)は、素地の上に白い泥状の粘土(化粧土)をかけて装飾する技法です。白化粧を施すことで、器の表面に明るい色合いや独特の風合いを与えることができます。刷毛やスポイトを使って模様を描くこともあり、陶器に繊細な表情を加える技法のひとつです。
染付 そめつけ
染付(そめつけ)は、磁器の表面に藍色の絵付けを施す技法です。呉須(ごす)と呼ばれるコバルト系の顔料を用い、素焼きの器に筆で絵付けを行い、その後透明釉をかけて本焼きをします。染付の技法は中国から伝わり、日本では有田焼や瀬戸焼などで発展しました。鮮やかな青と白のコントラストが特徴的です。
白磁 はくじ
白磁(はくじ)は、純白で滑らかな磁器のことを指します。磁器土に含まれるカオリンが主成分で、高温焼成によってガラス質に変化し、硬く透光性のある仕上がりになります。白磁は、中国の景徳鎮(けいとくちん)を起源とし、日本では有田焼などで発展しました。装飾を施さないシンプルな美しさが特徴です。
灰釉 かいゆう
灰釉(かいゆう)は、木灰を主成分とする釉薬の一種です。灰が溶けて器の表面にガラス質の層を作り、独特の光沢や風合いを生み出します。奈良時代から使われている伝統的な技法で、自然の風合いを活かした温かみのある仕上がりが特徴です。焼成中の炎や灰の影響によって、釉薬の流れや変化が生まれ、一つとして同じ仕上がりにならない点が魅力です。
木工・竹工 もっこう・ちっこう
木工・竹工は、木や竹を素材として加工し、家具や工芸品、生活道具を作る技術の総称です。日本では、指物や寄木細工、組子細工などの木工技術や、竹籠編みや竹割りなどの竹工芸が発展し、伝統的な技法が今も受け継がれています。
これらの技術は、職人の手仕事によって精密に仕上げられ、実用性と美しさを兼ね備えた作品が生み出されています。

指物 さしもの
指物(さしもの)は、釘を使わずに木材を組み合わせて作る木工技術です。木材同士を精密に削り、継ぎ手を作ることで、頑丈で美しい家具や箱物が仕上がります。日本の伝統工芸として、茶道具の収納箱や箪笥(たんす)、書棚などに多く用いられています。継ぎ目の精密さが仕上がりを左右するため、高度な職人技が求められる技法です。
寄木細工 よせぎざいく
寄木細工(よせぎざいく)は、色や木目の異なる木片を組み合わせて模様を作る木工技術です。江戸時代から箱根地方で発展し、幾何学模様の美しさが特徴です。伝統的な寄木細工では、自然の木の色を活かし、釘を使わずに接着してデザインを作ります。秘密箱などの仕掛けが施された製品もあり、実用性と遊び心を兼ね備えた工芸品として人気があります。
組子細工 くみこざいく
組子細工(くみこざいく)は、細かく削った木材を釘を使わずに組み合わせ、繊細な幾何学模様を作る技法です。障子や襖、欄間(らんま)などの建具装飾に用いられ、職人の精密な手仕事によって美しいデザインが生み出されます。伝統的な模様には、麻の葉や桜、亀甲(きっこう)などの縁起の良い柄があり、和の空間を彩る工芸として重宝されています。
曲げわっぱ まげわっぱ
曲げわっぱ(まげわっぱ)は、薄い木材を熱と水分を使って曲げ、輪状に成形した後、底板を取り付けて作る木工技術です。秋田県大館(おおだて)で発展し、弁当箱や器、桶(おけ)などに用いられています。木の香りや通気性の良さが特徴で、ご飯を美味しく保存できるため、昔から愛されてきました。軽量で持ち運びしやすく、長く使うほどに味わいが増す工芸品です。
木象嵌 もくぞうがん
木象嵌(もくぞうがん)は、異なる種類の木材を組み合わせて模様や絵を描く技法です。薄く切った木片をはめ込むことで、繊細なデザインを表現し、家具や装飾品の装飾として用いられます。日本では箱根や京都の工房で制作されており、自然の木の色を活かした立体的な仕上がりが魅力です。精密な技術が求められ、完成までに長い時間を要する工芸品です。
鉋掛け かんながけ
鉋掛け(かんながけ)は、木材の表面を滑らかに削る作業のことです。木工製品の仕上げに欠かせない工程であり、鉋(かんな)の使い方によって木の光沢や質感が変わります。職人は力加減や角度を調整しながら木肌を整え、美しい木目を引き出します。日本の伝統的な木工では、鉋掛けの技術が仕上がりの品質を大きく左右します。
木彫 もくちょう
木彫(もくちょう)は、木材に彫刻を施し、立体的な造形を作る技法です。仏像彫刻や欄間の装飾、能面(のうめん)などに用いられ、細部まで精緻に彫り込まれるのが特徴です。彫刻刀や鑿(のみ)を使って木材を削り、表面の質感や陰影を表現することで、迫力のある作品が生まれます。素材の選定や木目の活かし方も重要な要素となります。
竹籠編み たけかごあみ
竹籠編み(たけかごあみ)は、細く割った竹を編んで籠を作る技法です。日本では、古くから日用品として竹籠が使われており、農作業や市場の運搬用、茶道具の花籠(はなかご)など、多様な用途に活用されてきました。編み方によって模様や強度が変わり、竹のしなやかさと耐久性を活かした美しいデザインが特徴です。職人技が光る伝統工芸のひとつです。
竹割り たけわり
竹割り(たけわり)は、竹を細かく裂く工程で、竹細工や竹籠作りの基本となる技術です。竹の繊維に沿って均一に割ることで、しなやかで丈夫な竹ひごが作られます。竹の種類や使う用途によって割る幅や厚みを調整し、細工のしやすい状態に仕上げます。竹割りの技術が優れているほど、完成した竹工芸品の精度が高くなります。
籐巻き とうまき
籐巻き(とうまき)は、竹や木の持ち手や接合部分に、籐(とう)を巻き付けて補強する技法です。籐はしなやかで丈夫なため、竹籠の持ち手や刀の柄巻(つかまき)、家具の補強などに使われます。巻き方によってデザインや強度が変わり、職人の技術によって美しい仕上がりになります。実用性だけでなく、装飾的な要素も兼ね備えた技法です。
染織 せんしょく
染織(せんしょく)は、布を染めたり織ったりして模様や質感を作る技術の総称です。日本では、友禅染や藍染、絣(かすり)など、多様な技法が発展し、着物や帯、織物として受け継がれてきました。
染色技法と織りの技術を組み合わせることで、独特の風合いや美しいデザインが生まれます。伝統的な染織技術は、現在も工芸品やファッションとして親しまれています。
友禅 ゆうぜん
友禅(ゆうぜん)は、布に細かい模様を描き、鮮やかな色彩で染め上げる技法です。防染糊を使って絵柄を描き、筆で色を挿していくことで、繊細な模様が表現されます。京友禅、加賀友禅、東京友禅など地域ごとに特色があり、豪華な着物や帯に用いられます。絵画のような表現ができるため、芸術性の高い染織技術として評価されています。
絣 かすり
絣(かすり)は、糸を部分的に防染してから織ることで、独特のにじみ模様を作る技法です。織り上がると糸の防染部分が模様として浮かび上がり、繊細で趣のあるデザインが特徴です。久留米絣や伊予絣など、日本各地に伝統的な絣織物があり、日常着や帯地として親しまれています。
紬 つむぎ
紬(つむぎ)は、紬糸(つむぎいと)を使って織られる絹織物の一種です。絹のくず繭や手紡ぎの糸を使用し、ざっくりとした質感と素朴な風合いが特徴です。大島紬や結城紬が代表的な産地として知られ、軽くて丈夫なため、日常着としても重宝されます。紬の着物は着るほどに柔らかくなり、独特の風合いを楽しむことができます。
縮 ちぢみ
縮(ちぢみ)は、織った布を湯もみして縮ませ、独特のシボ(凹凸)を持たせた織物です。しわ加工によって肌触りがよく、吸湿性に優れるため、夏の着物や寝具に適しています。代表的なものに小千谷縮(おぢやちぢみ)や越後縮(えちごちぢみ)があり、軽くて涼しい着心地が特徴です。
絽 ろ
絽(ろ)は、布の一部を透かして織ることで、涼しげな風合いを持たせた織物です。細い糸を部分的に飛ばして織ることで、縞状の透け感が生まれ、軽やかな仕上がりになります。夏の着物や帯、法衣(ほうえ)などに用いられ、通気性が高いため、暑い季節に適した織物とされています。
紗 しゃ
紗(しゃ)は、絽と同様に透け感のある織物ですが、より大きな隙間を持つのが特徴です。撚り(より)を強くかけた糸を使って織ることで、しっかりした張りのある仕上がりになります。夏の着物や羽織、帯地として用いられ、軽さと涼しさを兼ね備えた生地です。
緯糸 ぬきいと
緯糸(ぬきいと)は、織物の横方向に通る糸のことです。経糸(たていと)の間を通しながら織り込まれ、布の模様や質感を作る重要な要素となります。緯糸の太さや色、織り方によって、織物の表情や風合いが変化し、多彩なデザインが生まれます。
経糸 たていと
経糸(たていと)は、織物の縦方向に張られる糸で、布の基盤を形成します。経糸は織機に固定され、緯糸を交差させながら布が作られます。経糸の張り具合や本数によって織物の強度や質感が変わり、絹、麻、木綿などの素材によって異なる風合いが生まれます。
藍染 あいぞめ
藍染(あいぞめ)は、植物の藍(あい)を発酵させた染料を使って染める技法です。深みのある青色が特徴で、日本では江戸時代に広く普及し、浴衣や作業着などに使われました。染める回数を増やすことで色の濃さを調整でき、藍独特の美しい発色が生まれます。防虫・防臭効果もあり、天然染料ならではの機能性も魅力です。
紅型 びんがた
紅型(びんがた)は、沖縄で発展した染色技法で、型紙を使って鮮やかな色彩の模様を染めるのが特徴です。植物や動物、幾何学模様などが描かれ、沖縄の伝統的な衣装や帯、工芸品に用いられています。赤、青、黄などの原色を大胆に使った華やかなデザインが多く、独自の美しさを持つ染色技法です。
和紙 わし
和紙(わし)は、日本独自の製法で作られる伝統的な紙で、丈夫で柔軟性があり、美しい風合いを持つのが特徴です。主に楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの植物繊維を原料とし、手漉きによって作られます。和紙は、書道用紙や障子紙、工芸品など幅広い用途で使用され、日本文化に深く根付いています。

手漉き てすき
手漉き(てすき)は、職人が一枚ずつ手作業で紙を漉く技法です。簀桁(すけた)と呼ばれる道具を使い、植物繊維を含む紙漉き液を均等に広げながら、水を切って成形します。手漉きの和紙は、繊維が絡み合っているため丈夫で、温かみのある質感が特徴です。書道や美術用の高級和紙として重宝されています。
流し漉き ながしすき
流し漉き(ながしすき)は、簀桁を前後に揺らしながら紙の層を何度も重ねて漉く技法です。江戸時代に発展し、繊維が均一に絡み合うため、耐久性の高い紙ができあがります。障子紙や襖紙、書道用紙などに多く用いられ、漉く回数や技術によって紙の厚みや風合いを調整できます。
紙縒 こより
紙縒(こより)は、和紙を細長くねじって糸状にしたものです。昔から封筒の封や飾り紐、工芸品の装飾に使われてきました。細くしっかりと撚ることで、丈夫な紙紐が作られ、手工芸や紙人形作りにも応用されます。現代では、和紙を活かしたアクセサリーやインテリアにも用いられています。
奉書紙 ほうしょし
奉書紙(ほうしょし)は、上質な和紙の一種で、かつて公文書や公式の書類に用いられていました。表面が滑らかで適度な厚みがあり、折り目が美しくつくため、書道や表具、贈答用の包装などに使用されます。現在でも、和の雰囲気を大切にした便箋や書簡に使われ、高級感のある紙として親しまれています。
楮紙 こうぞし
楮紙(こうぞし)は、楮(こうぞ)の繊維を原料として作られる和紙です。繊維が長いため、強靭で破れにくく、長期保存にも適しています。障子紙や書道用紙、版画用紙などに広く用いられ、日本の伝統工芸品や文化財の修復にも活用されています。手漉きによる楮紙は、独特の温かみと風合いが魅力です。
三椏紙 みつまたし
三椏紙(みつまたし)は、三椏(みつまた)の繊維を原料とする和紙で、滑らかで光沢のある仕上がりが特徴です。かつて日本の紙幣の原料としても使われ、細かい文字や精緻な印刷が可能なことから、高級印刷用紙や書画用紙に適しています。三椏紙は、やわらかくしなやかで、優雅な質感を持つ高級和紙として親しまれています。
雁皮紙 がんぴし
雁皮紙(がんぴし)は、雁皮(がんぴ)の繊維を使用した和紙で、表面が滑らかで半透明なのが特徴です。細かい繊維が絡み合っているため、強度が高く、虫害にも強いことから、古くから公文書や版画用紙として用いられてきました。光を透かす美しさがあり、細密な印刷や絵画用紙としても重宝されています。
透かし すかし
透かし(すかし)は、和紙に模様や文字を浮かび上がらせる技法です。紙を漉く際に、模様の部分だけ繊維を薄くすることで、光にかざすとデザインが浮き出て見えます。日本の紙幣や高級和紙に施されることが多く、伝統的な職人技によって精緻な模様が作られます。美術用や特別な用途の紙として用いられています。
揉み紙 もみがみ
揉み紙(もみがみ)は、漉き上げた和紙を手でもみほぐし、シワをつけて独特の風合いを出す技法です。和紙の柔らかさと立体的な質感が特徴で、襖(ふすま)紙や包装紙、工芸品の素材として使われます。染色と組み合わせることで、多彩な模様や表情を生み出すことができるのも魅力です。
染め和紙 そめわし
染め和紙(そめわし)は、和紙に染料を用いて模様や色彩を施した紙のことです。型染めや刷毛染め、絞り染めなどさまざまな技法があり、着物の型紙や和紙工芸品、便箋などに使われます。伝統的な技法を活かしつつ、現代のインテリアや包装紙としても人気があり、和の風合いを楽しめる素材として広く活用されています。
人形・張子 にんぎょう・はりこ
人形・張子(はりこ)は、日本の伝統工芸のひとつで、木や紙を用いて作られる人形や郷土玩具を指します。職人の手仕事によって細部まで丁寧に仕上げられ、装飾品や縁起物として広く親しまれています。
日本各地には地域ごとの特色を持つ人形が存在し、文化や歴史とともに受け継がれてきました。

市松人形 いちまつにんぎょう
市松人形(いちまつにんぎょう)は、江戸時代に誕生した日本人形で、白い肌と黒髪の端正な顔立ちが特徴です。名前の由来は、歌舞伎役者の佐野川市松が演じた役柄に似ていたことからとされています。女児の遊び人形として親しまれ、現在では雛人形の一種として飾られることもあります。衣装を着せ替えできるのが特徴で、精巧な手仕事が施されています。
御所人形 ごしょにんぎょう
御所人形(ごしょにんぎょう)は、ふっくらとした丸顔と白い肌が特徴の伝統的な人形です。室町時代に成立し、宮廷文化の影響を受け、江戸時代には公家や大名の贈答品として愛されました。木彫に胡粉(ごふん)を塗り、上品な仕上がりを持つのが特徴です。子どもの無邪気な表情を写実的に表現し、日本の美意識を反映した工芸品として知られています。
衣装人形 いしょうにんぎょう
衣装人形(いしょうにんぎょう)は、華やかな着物や装飾を施した人形で、雛人形や武者人形などが代表的です。細やかな刺繍や絹織物を使用し、豪華な衣装をまとった姿が特徴です。日本の伝統的な儀式や祭事と深く結びついており、節句や祝い事に飾られることが多いです。
木目込人形 きめこみにんぎょう
木目込人形(きめこみにんぎょう)は、木彫りの人形に溝を掘り、そこに布を貼り込んで衣装を表現する技法で作られます。17世紀の京都で誕生し、細部まで精巧に作られるのが特徴です。衣装の柄や色が一体化するため、繊細で上品な仕上がりになります。雛人形や五月人形としても人気があり、木目込の技術が施された作品は高級工芸品として評価されています。
からくり人形 からくりにんぎょう
からくり人形(からくりにんぎょう)は、江戸時代に発展した機械仕掛けの人形で、ゼンマイや歯車を利用して動く仕組みが施されています。茶運び人形や弓曳き人形が有名で、当時の職人技術の粋が集約された工芸品です。現代のロボット技術の先駆けともされ、日本のものづくり文化の象徴のひとつとして高く評価されています。
博多人形 はかたにんぎょう
博多人形(はかたにんぎょう)は、福岡県博多地方で作られる土人形で、繊細な表情と優雅な姿が特徴です。江戸時代から続く伝統工芸で、女性の美しい姿を写実的に表現したものが多く、歌舞伎や能の登場人物を題材にした作品も人気です。素焼きの質感と柔らかな彩色が魅力で、海外でも評価の高い工芸品です。
伏見人形 ふしみにんぎょう
伏見人形(ふしみにんぎょう)は、京都の伏見稲荷周辺で作られる郷土玩具で、日本最古の土人形とされています。素朴で温かみのあるデザインが特徴で、狐や干支の動物、縁起物の人形が多く作られています。江戸時代には広く庶民に親しまれ、現在も京都の土産品として人気があります。
赤べこ あかべこ
赤べこ(あかべこ)は、福島県会津地方の郷土玩具で、赤い牛の張子人形です。頭がゆらゆらと揺れる仕組みになっており、子どもの健康や無病息災を願う縁起物として知られています。由来には諸説あり、会津地方で流行した疫病を鎮めた牛の伝説に基づいていると言われています。シンプルながら愛らしい姿が人気を集めています。
虎張子 とらはりこ
虎張子(とらはりこ)は、勇ましい虎の姿を模した張子人形で、特に端午の節句に飾られることが多いです。京都や大阪で伝統的に作られ、男児の健康や出世を願う縁起物とされています。鮮やかな黄色と黒の模様が特徴で、紙で作られた体が動く仕組みになっているものもあります。
江戸張子 えどはりこ
江戸張子(えどはりこ)は、江戸時代に発展した張子の工芸品で、犬張子や天神様、招き猫などが代表的な作品です。和紙を貼り重ねて成形し、鮮やかな絵付けが施されるのが特徴です。庶民の生活に根付いた郷土玩具として親しまれ、現代でも縁起物や飾り物として人気があります。
ガラス工芸 がらすこうげい
ガラス工芸は、ガラスを加工して装飾品や器を作る技術の総称です。透明感のある美しい仕上がりが特徴で、日本では切子や宙吹き、型吹きなどの技法が発展しました。ガラスの成形方法や装飾技術によって、さまざまな表情が生まれ、日常使いの器から芸術的な作品まで幅広く制作されています。

切子 きりこ
切子(きりこ)は、ガラスの表面に彫刻を施し、光の反射によって美しい模様を生み出す技法です。日本では江戸切子や薩摩切子が有名で、ダイヤモンドホイールや砥石を使って細かいカットを入れます。幾何学模様や花柄などのデザインが多く、透明なガラスだけでなく、色被せガラスにも加工されます。
宙吹き ちゅうぶき
宙吹き(ちゅうぶき)は、竿の先に熔融ガラスを巻き取り、息を吹き込んで成形する技法です。型を使わずに作るため、職人の手加減によって一点一点異なる形に仕上がります。ゆるやかな歪みや気泡が入りやすく、手作りならではの温かみが感じられるのが魅力です。グラスや花瓶など、さまざまな器に用いられます。
型吹き かたぶき
型吹き(かたぶき)は、金属や木の型に熔融ガラスを吹き込んで成形する技法です。宙吹きに比べて均一な形状を作りやすく、大量生産にも適しています。型に彫られた模様がそのままガラスに転写されるため、レトロなデザインのガラス製品によく使われます。
熔融 ようゆう
熔融(ようゆう)は、ガラスを高温で溶かして加工する基本的な工程です。一般的に1,000~1,500℃の高温で加熱し、成形しやすい状態にします。熔融ガラスは吹きガラスや型成形などさまざまな技法に利用され、溶ける温度や冷却速度によって透明度や強度が変化します。
パート・ド・ヴェール pâte de verre
パート・ド・ヴェール(pâte de verre)は、ガラスの粉を型に詰めて焼成する技法です。フランスで発展した技法で、柔らかい色彩やマットな質感が特徴です。通常のガラスよりも繊細で、彫刻的な表現が可能なため、アート作品や装飾品として人気があります。
グラヴィール gravure
グラヴィール(gravure)は、ガラスの表面に彫刻を施す装飾技法です。回転するルーターやダイヤモンドホイールを使って、細かい絵柄や文字を彫り込むことができます。透明なガラスに繊細な模様を施すことで、幻想的な美しさが生まれます。高級グラスや装飾品に多く用いられます。
エナメル彩 えなめるさい
エナメル彩(えなめるさい)は、ガラスの表面に特殊な顔料を焼き付けて装飾する技法です。低温で焼成することで、鮮やかな色彩を定着させます。金や銀を使った華やかな装飾が可能で、ヨーロッパのボヘミアガラスや日本の江戸ガラスなどで多く見られます。
被せガラス きせがらす
被せガラス(きせがらす)は、透明なガラスの上に色ガラスを重ねた多層構造のガラスです。切子細工によって色ガラスの層を削ることで、美しい模様を生み出します。江戸切子や薩摩切子などの伝統工芸品に多く用いられ、透明と色のコントラストが魅力的な仕上がりになります。
ガラス象嵌 がらすぞうがん
ガラス象嵌(がらすぞうがん)は、ガラスの表面に異なる色や素材を埋め込んで装飾する技法です。金箔や銀箔、他のガラス片を組み合わせることで、独特のデザインが生まれます。ジュエリーやアート作品に用いられることが多く、職人の高度な技術が求められます。
光沢加工 こうたくかこう
光沢加工(こうたくかこう)は、ガラスの表面を磨き上げて艶を出す技法です。バフや酸処理を施すことで、滑らかで美しい光沢が得られます。クリスタルガラスの高級グラスや装飾品に用いられ、透明感を最大限に引き出す仕上げ技術のひとつです。