日本の現代工芸は、伝統的な技法を受け継ぎながらも革新的な表現を追求し、世界のアートシーンで注目を集めています。
陶芸や漆芸、金工、ガラスなど多様な分野で活躍する作家たちは、国内外の展覧会やコレクションで高い評価を受けてきました。

しかし、数多くの工芸作家の中から誰が国際的に評価されているのかを知るのは容易ではありません。
この記事では、世界で活躍している日本の現代工芸作家10名を厳選し、その特徴や代表的な活動を紹介します。

世界で活躍している日本の現代工芸作家10選

日本の現代工芸は、伝統的な素材や技法を基盤としながらも、国際舞台で評価を受ける新しい造形表現を生み出しています。
竹、ガラス、陶土など、それぞれの素材に独自の解釈を与え、空間や光、自然との関係性を作品に取り込むことで、観る者に強い印象を与えています。

ここでは、世界で活躍し、国内外の美術館や国際展で高く評価されている日本の現代工芸作家たちを取り上げます。
彼らの活動は、工芸を超えてアートや建築、デザインとも交わり、国際的な文化交流の担い手としても注目されています。

十四代 今泉今右衛門氏──色鍋島の精緻な文様構成

十四代今泉今右衛門氏(1962年佐賀県有田町生まれ)は、鍋島焼(なべしまやき)の最高峰とされる「色鍋島」を現代に継承し、その精緻な文様構成で国内外に知られる陶芸家です。
鍋島焼は江戸時代に佐賀藩の御用窯で生まれ、将軍家や諸大名への献上品・贈答品として発展した磁器であり、上絵付けの繊細さと高度な技術で知られています。

今泉氏は代々受け継がれてきた鍋島様式を守りつつ、現代的な色彩感覚や文様構成を加えることで新たな表現を切り拓きました。
特に「墨はじき」技法を発展させた「雪花墨はじき」や、余白を活かした画面構成、色絵具を幾層にも重ねて生まれる深い発色は特徴的で、自然界のモチーフを抽象化しながら、気品ある美を生み出しています。

2014年に陶芸分野史上最年少で重要無形文化財「色絵磁器」保持者(人間国宝)に認定され、日本伝統工芸展などで数々の賞を受賞。
作品は東京国立近代美術館、大英博物館、オークランド博物館をはじめ国内外の美術館に収蔵されています。色鍋島という伝統を未来に継承しつつ、現代の色鍋島としての新たな造形美を追求する存在として活躍しています。

田辺竹雲斎(四代)氏──竹工インスタレーションと巨大編組の表現

四代田辺竹雲斎氏(本名:田辺健雄、1973年大阪府堺市生まれ)は、竹という伝統素材を用いて、伝統工芸と現代アートを融合させた作品で注目を集めている作家です。
幼少より竹に親しみ、大阪市立工芸高校美術科、東京藝術大学美術学部彫刻科で学び、卒業後大分県立竹工芸訓練センターで2年間竹の編組やデザインなどの基礎を重ねた後、父・三代竹雲斎の技術を継承し、2017年に四代田辺竹雲斎を襲名しています。

田辺氏の作品は、巨大な編組構造や自在に曲線を描く竹の造形と、空間を満たすインスタレーション的要素を併せ持ち、観る者に竹の存在感と素材の可能性を再認識させます。
2001年にフィラデルフィア美術館クラフトショーに招待出品され、以降ボストン美術館、大英博物館、フランス国立ギメ東洋美術館、メトロポリタン美術館などで展覧会を開催し、これらの美術館に作品が収蔵されていることも特徴です。

2022年には芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。伝統竹工芸の枠を超えて、光と影、空間を編む表現で、世界舞台での評価を確立しています。

三嶋りつ惠氏──ヴェネツィアを拠点とするガラス造形の革新

三嶋りつ惠氏(1962年京都府生まれ)は、ヴェネツィア(イタリア)のムラーノ島を拠点に活動してきたガラス作家です。
1989年にイタリアに移住して以来、1996年よりムラーノ島のガラス工房で職人とのコラボレーションを開始し、透明なガラスによる有機的フォルムの作品を追求してきました。2011年より京都にも住まいを構え、現在は二拠点での生活を送っています。

光を通し、光を映し出す作品群は、環境との共鳴や空間を包む気配を表現することに重きが置かれています。
公共空間でのインスタレーションや、建築空間とのコラボレーションも多数行っており、その多様な表現で国際的に評価されています。

2022年に国立アカデミア美術館(ヴェネツィア)での個展「RITSUE MISHIMA ‒ GLASS WORKS」でヴィジュアルと体験の両方を意識した展覧会を展開し、The Italian Glass Weeks ヴェネツィア部門で「最優秀プロジェクト賞・Fondazione di Venezia Award」を受賞。
同年にはBVLGARI AVRORA AWARDSも受賞しています。光と輪郭を描き出すその表現は、伝統とモダニティの融合を体現しているといえるでしょう。

小川待子氏──土のテクスチャと空洞の造形美

小川待子(1946年北海道札幌市生まれ)は、陶芸の領域で独自の造形美を追求する作家です。1969年東京藝術大学美術学部工芸科(陶芸専攻)を卒業後、パリのフランス国立工芸学校(École Nationale Supérieure des Arts et Métiers)で陶芸を研修生として学び(1969-71年)、さらに1972年から75年にかけて人類学者の夫・川田順造の西アフリカでの工芸技術調査に同行し、助手を務めながら現地で陶芸を研究しました。

幼少期から鉱物に惹かれ、パリ滞在中に鉱物学博物館で鉱物標本の美しさに衝撃を受け、「かたちはすでに在る」という哲学を獲得しました。
ひび・欠け・釉薬の縮れなど、従来「欠点」と見なされてきた要素を受容し、それらを作品のテクスチャや造形的な空洞の中に取り込むことで、土の生命力を感じさせる作品を展開しています。

1992年にタカシマヤ文化基金新鋭作家奨励賞、2001年に日本陶磁協会賞、2008年に第58回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。国内外での個展・企画展が多数あり、収蔵館も神奈川県立近代美術館、サントリー美術館、東京国立近代美術館、豊田市美術館、メトロポリタン美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ヴィクトリア&アルバート美術館などに及びます。
鑑賞者との対話を重視するその「うつわ」は、素材の原型的な力を引き出す造形美として支持されています。

金子潤氏──大型セラミックと色面構成「Dango」

金子潤氏(1942年愛知県名古屋市生まれ、アメリカ在住)は、大型セラミック作品と鮮やかな色面構成で知られる現代陶芸の巨匠です。
特に代表シリーズ「Dango(ダンゴ)」は、1983年にネブラスカ州オマハのベミス・センター・フォー・コンテンポラリー・アーツで制作された最初の作品は高さ6フィート(約1.8メートル)、重さ5.5トンの巨大な陶の立体で、現在では高さ13フィート(約4メートル)を超える作品も制作し、幾何学的な色彩や模様を施したもので、国際的に高い評価を受けています。

金子氏は1963年に画家を志して渡米し、ロサンゼルスのシュイナード美術学校で陶芸と出会い、アメリカ現代陶芸の巨匠ピーター・ヴォーコスやジェリー・ロスマンに師事しました。1986年よりアメリカ中西部のオマハを拠点に、陶芸を彫刻的造形の領域へと押し広げています。
その作品は単なる工芸品ではなく、都市空間に配置されるパブリックアートとしても機能し、各地の美術館や公共施設に設置されています。

大胆な造形と繊細な表面装飾の両立は、陶を「器」という概念から解き放ち、抽象美術としての可能性を提示しました。
作品はスミソニアン・アメリカ美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館をはじめ世界中の美術館に収蔵され、国際展覧会での発表も多く、アメリカをはじめ世界中に多くのファンを持つ存在です。

三島喜美代氏──印刷イメージと陶による現代性の転写

三島喜美代(1932年大阪府生まれ)は、印刷物や日常の情報を陶という素材に転写する独自の表現で知られた作家です。1950年代より制作を開始し、1954年から69年まで独立美術協会に所属して油彩画を制作。1960年代には新聞や雑誌などをコラージュした平面作品を手がけ、1971年に「日本陶芸展」前衛部門で陶にシルクスクリーンで印刷物を転写した立体作品「割れる印刷物」を初出品し、新聞や段ボール、ポスターといった大量消費社会を象徴するモチーフを陶で精巧に再現しました。

焼成によって得られる重厚感と、印刷物の軽さや一時性との対比が作品に独特の緊張感を与えています。
三島氏の作品は、陶芸が持つ伝統性と現代社会批評的な視点を融合させた点に特徴があり、美術館コレクションとして国内外で高い評価を受けていました。

1986-87年にはロックフェラー財団の奨学金でニューヨークに留学。近年は2021年森美術館「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」に参加し、2022年に第63回毎日芸術賞を受賞するなど、アメリカやヨーロッパでも大規模な展覧会が開催され、グローバルな現代美術の文脈においても位置づけられていました。
伝統素材を用いながら社会の在り方を問うその姿勢は、現代工芸の可能性を広げる重要な実践として評価されています。

内田鋼一氏──ミニマル造形と茶の美意識

内田鋼一氏(1969年愛知県名古屋市生まれ)は、陶芸におけるミニマルな造形と茶の湯文化を意識した美意識で注目を集める作家です。
1990年に愛知県立瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科を修了後、アジア、アフリカ、ヨーロッパなど世界各地の窯業地での滞在制作を重ね、1992年に三重県四日市市に工房を構え独立しました。シンプルな形態や無釉の質感を生かし、素材そのものが持つ存在感を引き出す作品は、現代的でありながら日本的な精神性を感じさせます。

特に茶碗や花器など、茶の湯に関連する器は、余白や静けさを重視した造形で高く評価されており、2018年には日本陶磁協会賞を受賞しています。
内田氏は国内外で展覧会を多数開催し、また鉄や漆喰、木などを用いた家具や調度品の制作、空間デザインや建築とのコラボレーション、2015年には萬古焼をテーマとする私設美術館「BANKO archive design museum」の開館など、多岐にわたる活動を展開しています。

陶芸を「生活と空間をつなぐ造形」として捉える姿勢は、従来の工芸観を刷新し、現代における工芸の新しい価値を提示しています。

森口邦彦氏──友禅染の幾何学構成と色面デザイン

森口邦彦氏(1941年京都市生まれ)は、2007年に重要無形文化財「友禅」保持者として認定された染色作家です。同じく1967年に友禅の重要無形文化財保持者(人間国宝第1号)に認定された父・森口華弘氏とともに、親子同時期に重要無形文化財保持者に認められた伝統工芸分野制度史上初の事例として知られています。
伝統的な友禅の技法を継承しつつ、1963年に京都市立美術大学日本画科を卒業後、パリ国立高等装飾美術学校でグラフィックデザインを学んだ経験を活かし、幾何学的な構成と大胆な色面分割を取り入れ、現代性の高いデザインを生み出してきました。

森口氏の作品は、色の重なりや分割によってリズミカルな空間を作り出し、まるで抽象絵画のような印象を与えます。父の花鳥風月をモチーフとした具象的な作風に対し、明快な幾何学文様を駆使した革新的な表現を追求しています。
パリ日本文化会館での個展「森口邦彦-隠された秩序」展(2016年)をはじめ、パリやニューヨークなど海外展でも高い評価を得ており、日本の染色芸術を国際的に紹介する存在として知られています。

2020年に文化功労者に選定、2021年にフランス共和国レジオン・ドヌール勲章コマンドゥール章を受章。
2023年にはヴァン クリーフ&アーペルとのコラボレーション「プレシャス ボックス」を発表するなど、伝統工芸の枠を超え、デザインとアートの架け橋となるその活動は、友禅染を次世代へとつなぐ革新的な実践です。

須藤玲子(NUNO)氏──実験的テキスタイルと国際共同制作

須藤玲子氏(1953年茨城県生まれ)は、1983年にテキスタイルデザイン・スタジオ「NUNO」の設立に参加し、1987年より代表・ディレクターとして率いて、実験的で独創的な布作りで世界的に評価を受けるデザイナーです。
1975年武蔵野美術大学短期大学工芸デザイン学部専攻科を修了後、手織り作家として活動していた中で新井淳一との出会いがNUNO設立のきっかけとなりました。和紙や金属、羽毛など多様な素材を織りや染めに取り入れ、布の可能性を徹底的に探求しています。

マンダリンオリエンタル東京のインテリアファブリック全般のディレクションや、2018年国立新美術館で300匹以上の鯉のぼりを展示するなど、空間デザインの分野でも活躍しています。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、東京国立近代美術館など国内外25館にコレクションされており、現代日本のテキスタイルを代表する存在です。

1994年ロスコー賞、2007年毎日デザイン賞、2022年円空大賞、2023年令和5年度芸術選奨文部科学大臣賞(美術A部門)など多数受賞。
2016年より株式会社良品計画アドバイザリーボードを務めるなど、須藤氏の活動は、伝統的な織物の概念を刷新し、布を媒介とした国際的な文化交流の先駆けといえるでしょう。

大角幸枝氏──鍛金×布目象嵌による精緻な金工表現

大角幸枝氏(1945年静岡県生まれ)は、2015年に鍛金分野で女性として初めて重要無形文化財保持者に認定された金工家です。
1969年東京藝術大学美術学部芸術学科工芸史専攻を卒業後、彫金の桂盛行・鹿島一谷、鍛金の関谷四郎に師事し、金属を打ち延ばして成形する鍛金を基盤に、布目象嵌や彫金を融合させた独自の技法を確立しました。

特に布目象嵌では、銀で器を成形した後、表面に細かな切れ目を入れて金・銀・鉛・プラチナといった異なる金属を緻密に嵌め込み、表面に絹織物のような輝きを生み出します。
1987年第34回日本伝統工芸展では「銀打出花器『風濤』」で日本工芸会総裁賞を受賞し、波や風などの自然現象を力強い造形として表現した作風が評価されました。代表作には「海峡」「大潮」シリーズをはじめ、自然現象を象徴する造形美が国内外で高く評価され、東京国立近代美術館をはじめ主要美術館に収蔵されています。

2010年紫綬褒章受章、2014年第1回米国立スミソニアン協会客員作家選定など国際的にも評価され、大角氏の作風は、伝統の精緻な技と現代的な造形感覚を兼ね備え、女性作家ならではの繊細な美意識を工芸に持ち込んだ点で革新的です。

まとめ

日本の現代工芸作家たちは、竹、陶磁、漆、染織、金工、ガラス、テキスタイルなど多彩な分野で独自の表現を確立し、世界の舞台で高く評価されています。
彼らは伝統的な技法を継承するだけでなく、現代的な感覚や国際的な視野を取り入れることで、新しい工芸の価値を提示しています。

その活動は作品単体にとどまらず、建築やデザインとの協働、文化交流の担い手としても広がっています。
今回取り上げた10名はいずれも、自らの素材と真摯に向き合い、工芸の未来を切り開く存在です。彼らの活動を知ることは、現代における日本工芸の可能性を理解する上で大きな手がかりとなるでしょう。

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日本の伝統工芸の魅力を世界に発信する専門家集団です。人間国宝や著名作家の作品、伝統技術の継承、最新の工芸トレンドまで、幅広い視点で日本の工芸文化を探求しています。「Kogei Japonica 工芸ジャポニカ」を通じて、伝統と革新が融合する新しい工芸の世界をご紹介し、日本の伝統文化の未来を世界とつなぐ架け橋として活動を行っています。

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