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Home»伝統工芸イベント»国際芸術祭「あいち2025」が切り拓く伝統工芸の新境界|千年の陶都・瀬戸から発信するコンテンポラリー・セラミックアート

国際芸術祭「あいち2025」が切り拓く伝統工芸の新境界|千年の陶都・瀬戸から発信するコンテンポラリー・セラミックアート

2025年10月2日3 Mins Read 伝統工芸イベント 2 Views
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国際芸術祭「あいち2025」
出展:国際芸術祭「あいち2025」

2025年9月13日から11月30日までの79日間、愛知県では国内最大級の国際芸術祭が開催されます。
注目すべき点は、千年以上の歴史を持つ陶磁器産地・瀬戸市が主要会場となり、「せともの」の語源となった陶都に世界中から62組のアーティストが集結することです。
芸術監督には、英国美術誌『ArtReview』の2024年「Power 100」で第1位に選出されたフール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター、国際ビエンナーレ協会会長)が就任し、伝統工芸とコンテンポラリーアートの新たな地平を切り拓きます。

本稿では、陶芸家、工房経営者、学芸員、研究者など工芸産業のプロフェッショナルの皆さまを対象に、2025年4月にリニューアルオープンした愛知県陶磁美術館での展示戦略、日本六古窯としての瀬戸市の産業的価値、国際的キュレーションがもたらす市場機会を、専門的な視座から分析します。

目次

  • 1. 開催概要と工芸産業における戦略的位置づけ
    • 1.1 基本情報とステークホルダー構成
    • 1.2 陶磁産業集積地での開催が持つ戦略的価値
  • 2. 愛知県陶磁美術館|伝統と革新の交差点
    • 2.1 施設リニューアルと谷口吉郎建築の空間戦略
    • 2.2 13組のアーティストによる陶磁専門施設での展開
    • 2.3 体験型プログラムとプロフェッショナル向け教育展開
  • 3. 瀬戸市|日本六古窯の現代的変容
    • 3.1 千年の歴史と文化的影響力
    • 3.2 伝統的工芸品指定と産地特性
    • 3.3 世界有数の粘土資源と素材優位性
    • 3.4 瀬戸陶芸協会と現代作家の技術革新
  • 4. フール・アル・カシミの国際的視座
    • 4.1 キュレーターとしての実績と影響力
    • 4.2 「灰と薔薇のあいまに」の工芸的解釈
    • 4.3 中東-日本工芸文化の対話可能性
  • 5. 産業連携と経済効果分析
    • 5.1 地域ブランディング戦略と産業組織の役割
    • 5.2 観光産業との相乗効果とツーリズム戦略
    • 5.3 教育機関との産学連携モデル
  • 6. 関連事業とパートナーシップ・プログラム
    • 6.1 同時開催展覧会との相乗効果
    • 6.2 地域連携施設のネットワーク化
    • 6.3 産業支援機関との技術連携
  • 7. 今後の展望と工芸産業への提言
    • 7.1 長期的影響予測とレガシー構築
    • 7.2 産業的課題と具体的対策
    • 7.3 政策提言|工芸産業の持続可能な発展に向けて
  • 8. 実務者向けリソースとアクセス情報
    • 8.1 会場アクセスと周辺施設
    • 8.2 関連リンクと情報源
  • まとめ|工芸産業のパラダイムシフトへの契機

1. 開催概要と工芸産業における戦略的位置づけ

1.1 基本情報とステークホルダー構成

開催概要

  • 会期: 2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間]です。
  • 主会場: 愛知芸術文化センター(名古屋市東区)、愛知県陶磁美術館(瀬戸市)、瀬戸市のまちなかです。
  • 芸術監督: フール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)です。
  • テーマ: 「灰と薔薇のあいまに」(A Time Between Ashes and Roses)です。
  • 参加アーティスト: 62組(国内26組、海外36組)です。
  • 主催: 国際芸術祭「あいち」組織委員会[会長:大林剛郎(株式会社大林組取締役会長)]です。
  • オフィシャルサイト:https://aichitriennale.jp/

キュレトリアル体制

  • 学芸統括: 飯田志保子(キュレーター、あいちトリエンナーレ2013・2019・2022キュレーター)です。
  • キュレーター(現代美術): 入澤聖明(愛知県陶磁美術館学芸員、日本近現代陶芸史専門)です。
  • キュレトリアルアドバイザー: 石倉敏明(人類学者、秋田公立美術大学准教授)、趙純恵(森美術館アソシエイト・キュレーター)です。

1.2 陶磁産業集積地での開催が持つ戦略的価値

瀬戸市は日本最大級の窯業地として、2013年時点で189の陶磁器事業所と2,654人の就業者を擁しています(全盛期の1978年には1,666事業所、14,693人でした)。
「せともの」という言葉が陶磁器の代名詞となったこの地域は、千年以上にわたり陶土の採掘から製造、流通までの垂直統合型の産業生態系を維持してきました。

国際芸術祭の主要会場として瀬戸市が初めて選定されたことは、次のような産業的意義を持ちます。

  • 1. 地域資源の国際的可視化: 本山木節粘土や本山蛙目粘土、猿投長石など、世界有数の良質な陶土資源の価値を国際的にアピールします。
  • 2. 技術集積のブランディング: 碍子やファインセラミックスなどの派生産業も含め、技術集積地としての総合力を提示します。
  • 3. 次世代市場の開拓: コンテンポラリーアートとの融合により、新たな顧客層の獲得と輸出促進につなげます。

2. 愛知県陶磁美術館|伝統と革新の交差点

2.1 施設リニューアルと谷口吉郎建築の空間戦略


愛知県陶磁美術館は2025年4月にリニューアルオープンを果たし、本芸術祭の中核施設として機能します。
1978年に「愛知県陶磁資料館」として開館し、2013年に現名称へ変更した当館は、約8,000点の陶磁器コレクションを所蔵する日本最大級の専門美術館です。

施設構成

  • 本館: 谷口吉郎設計(1978年)の近代建築で、常設展示・企画展示室を備えています。
  • デザインあいち: 産業デザインに特化した展示施設です。
  • つくるとこ陶芸館: ロクロ・手びねり・絵付体験が可能な作陶施設です。
  • 陶翠庵: 茶道文化との接点を提示する茶室です。
  • 窯の記憶: 古窯跡の現地保存展示です。

谷口吉郎(1904–1979)は慶應義塾大学名誉教授で、東宮御所(現赤坂御所)の設計者としても知られる、日本的モダニズム建築を代表する建築家です。
本館建築は自然光を効果的に取り入れる展示空間設計が特徴で、陶磁器の質感表現に最適化されています。

2.2 13組のアーティストによる陶磁専門施設での展開

愛知県陶磁美術館では、リニューアルした本館をはじめ「デザインあいち」や「つくるとこ陶芸館」、茶室「陶翠庵」、芝生広場などを活用し、13組のアーティストが作品を展示します。

キュレーターの入澤聖明は、「異才 辻晉堂の陶彫—陶芸であらざるの造形から」(2020年)や「やきもの現代考—内⇄外—」(2022年)など、陶芸の境界領域を探求する展覧会を企画してきた実績をお持ちです。
本芸術祭では、伝統的素材・技法の現代的解釈をテーマに、次のようなアプローチが展開されると考えられます。

予測される展示戦略

  • コレクション対話型展示: 館蔵の古陶磁と現代作品の時空を超えた対話を試みます。
  • 素材研究的アプローチ: 瀬戸産粘土の物性を探求するサイトスペシフィックな作品を提示します。
  • 技法の脱構築: 釉薬技術や焼成プロセスを現代美術の文脈で再解釈します。

2.3 体験型プログラムとプロフェッショナル向け教育展開

つくるとこ陶芸館の専門性

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  • 電動ろくろ体験: プロ仕様の設備を用いて遠心力の制御技術を体験できます。
  • 手びねり・絵付: 成形から装飾までの一貫した制作プロセスを理解できます。
  • 焼成見学: 酸化焼成・還元焼成の温度曲線と窯変現象を観察できます。

デザインあいちでの産業連携

  • 瀬戸市の碍子産業やファインセラミックス技術との接点を提示します。
  • 産業デザインと芸術表現の境界領域を探求します。
  • プロダクトデザイナー向けのマテリアルライブラリー機能を活用できます。

3. 瀬戸市|日本六古窯の現代的変容

3.1 千年の歴史と文化的影響力

瀬戸市は平安時代から続く窯業地として、2017年に日本六古窯(瀬戸・常滑・越前・信楽・丹波・備前)の一つとして日本遺産に認定されました。
「せともの(瀬戸物)」という言葉が陶磁器全般を指す普通名詞になった事実は、この地域の文化的影響力の大きさを示しています。

歴史的発展

  • 平安時代: 猿投窯の技術を継承し、灰釉陶器の生産を開始しました。
  • 鎌倉時代: 古瀬戸と呼ばれる施釉陶器が確立しました。
  • 室町~戦国時代: 「瀬戸山離散」により多くの陶工が美濃地方へ移住しました。
  • 江戸時代: 徳川家康による「窯屋呼び戻し」(1610年頃)で瀬戸窯が復興しました。
  • 明治時代: 磁器生産技術を導入し、輸出産業として発展しました。
  • 昭和時代: ノベルティ生産が全盛期(1970年代)を迎えました。
  • 平成~令和: ファインセラミックスや碍子産業へ技術転用が進みました。

3.2 伝統的工芸品指定と産地特性

瀬戸市には2つの伝統的工芸品が存在します。

赤津焼(あかづやき):1977年指定

  • 産地: 瀬戸市東部の赤津地区です。
  • 特徴: 7種類の釉薬(灰釉、鉄釉、古瀬戸釉、黄瀬戸釉、志野釉、織部釉、御深井釉)と12種類の装飾技法が特徴です。
  • 歴史: 平安時代に開窯し、日本六古窯の中で最初に施釉技術を確立しました。
  • 技術的意義: 江戸時代初期に釉薬技術体系が確立し、型押しやイッチン、ヘラ彫り、線彫りなどの装飾技法が発展しました。

瀬戸染付焼(せとそめつけやき):1997年指定

  • 産地: 瀬戸市・尾張旭市周辺です。
  • 特徴: 透明感のある白い素地に、呉須(コバルト顔料)による藍色の絵付が施されます。
  • 素材: 本山木節粘土や本山蛙目粘土、猿投長石など地元産原料を使用します。
  • 歴史: 19世紀初頭に九州から持ち帰られた磁器焼成技術と中国風絵付技術が融合して発展しました。
  • 特色: 瀬戸の自然風景を写実的に描く独自の染付技法が見られます。

3.3 世界有数の粘土資源と素材優位性

瀬戸市周辺には地質学的に「瀬戸層群」と呼ばれる新第三紀中新世(約1,500万年前)の地層が分布し、次のような優れた陶土資源を産出します。

主要粘土資源

  • 1. 木節粘土(きぶしねんど): 可塑性に富み白色度が高く、磁器の主原料として用いられます。
  • 2. 蛙目粘土(がいろめねんど): 鉄分が少なく白色に焼成され、陶器・磁器の双方に適します。
  • 3. 猿投長石(さなげちょうせき): 釉薬の主要原料となる地域固有の長石です。

技術転用と産業展開

  • 碍子産業: 日本ガイシやNGKインシュレーターズなど、世界トップシェア企業が集積しています。
  • ファインセラミックス: 半導体製造装置や自動車部品への応用が進んでいます。
  • セラミックス技術: 高温焼成技術が航空宇宙産業への展開にも寄与しています。

3.4 瀬戸陶芸協会と現代作家の技術革新

瀬戸陶芸協会は1936年に創立され、89年の歴史を持つ作家団体です。
伝統技法を継承しながら現代的表現を模索する作家たちが、次のような技術革新に取り組んでいます。

主要技法の現代的展開

  • 練り込み技法: 異なる色土を積層・切断して幾何学的文様を創出します(水野智路ほか)。
  • 氷裂貫入: 釉薬のひび割れを意匠化し、温度や時間の制御で表現を多様化します(栁本美帆ほか)。
  • 蛍手技法: 極薄成形による透光性表現に、LED光源との組み合わせも見られます(樽田裕史ほか)。
  • 瀬戸染付: 伝統的な呉須絵付を抽象表現へ展開し、多層レイヤー技法を導入します(森本静花ほか)。

4. フール・アル・カシミの国際的視座

4.1 キュレーターとしての実績と影響力

フール・アル・カシミは、2024年12月に発表された英国美術誌『ArtReview』の「Power 100」で第1位に選出されました。
このランキングは世界中のアート専門家40名の意見をもとに、過去12か月で最も影響力のある100組を選ぶもので、彼女のグローバルな影響力を証明しています。

主要実績

  • シャルジャ美術財団: 2009年設立。理事長兼ディレクターとして中東・アフリカ・南アジアのアート支援を推進しています。
  • シャルジャ・ビエンナーレ: 2003年第6回からディレクターを務め、2023年第15回ではキュレーターとして「Thinking Historically in the Present」を企画しました。
  • 国際ビエンナーレ協会(IBA): 2017年から会長として、世界のビエンナーレネットワークを統括しています。
  • シドニー・ビエンナーレ2026: 芸術監督に就任予定(2026年開催)。
  • あいち2025: 芸術監督として日本で初めてキュレーションを行います。

4.2 「灰と薔薇のあいまに」の工芸的解釈

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芸術祭テーマ「灰と薔薇のあいまに」は、シリア生まれの詩人アドニス(1930–)の詩集『灰と薔薇の間の時』(1970年)から着想を得ています。
アドニスは1967年の第三次中東戦争後、戦争による環境破壊を地質学的時間軸から考察し、「灰」(破壊)の後に「薔薇」(開花)が続くという循環的な時間観を提示しました。

陶芸制作プロセスとの多層的共鳴

1. 素材としての「灰」
  • 釉薬の主成分である灰(木灰、藁灰、骨灰)は、陶磁器製造の基幹マテリアルです。
  • 瀬戸市の産業史において、陶磁製品生産で黒く染まった空は「繁栄の象徴」として記憶されています。
  • 灰釉は日本最古の施釉技術で、平安時代の猿投窯で確立されました。
2. 焼成による変容
  • 1200~1300℃の還元焼成により土と釉薬が化学的に結合し、新たな物性を獲得します。
  • 酸化炎と還元炎の制御による窯変現象は、偶然性と必然性の「あいま」に位置づけられます。
  • 「ねらし」(高温維持工程)による釉薬の熟成は、時間芸術としての側面を帯びます。
3. 地質学的時間性
  • 陶磁器は半永久的な保存性を持ち、考古学的なタイムスパンで人類史を記録します。
  • 粘土鉱物の堆積年代(約1,500万年前)と人間の創作時間が交差します。
  • 人新世(Anthropocene)批評において、人間中心主義を相対化する視座をもたらします。

4.3 中東-日本工芸文化の対話可能性

フール・アル・カシミの選任は、日本の陶磁文化をグローバルサウスの視座から再評価する機会を提供します。

イスラーム文化圏との接点

  • ペルシア陶器: ラスター彩やミナイ彩など、金属光沢を持つ装飾技法が挙げられます。
  • トルコ陶器: イズニック・タイルに見られる鮮やかなブルーやグリーンの釉薬が特徴です。
  • シリア陶器: ラッカ窯の緑釉陶器と幾何学文様が知られています。

脱植民地化アプローチ

  • 欧米中心のコンテンポラリーアート言説から脱却します。
  • 先住民族の知識体系と工芸技術を再評価します。
  • 非西洋圏における「伝統と革新」の緊張関係を可視化します。

5. 産業連携と経済効果分析

5.1 地域ブランディング戦略と産業組織の役割

主要産業組織

  • 瀬戸焼振興協会: 瀬戸焼の普及啓発、技術継承、販路拡大を担います。
  • 愛知県陶磁器工業協同組合: 製造業者の共同受注、技術指導、品質管理を推進します。
  • 瀬戸染付焼工業協同組合: 組合員21名(2017年時点)により、伝統技法の保存と後継者育成に取り組みます。
  • 赤津焼工業協同組合: 赤津地区の窯元組織として、7種の釉薬技術を継承します。

国際芸術祭との連携効果

  • 1. 認知度向上: 海外メディアへの露出を通じ、「Seto Ceramic」ブランドの国際的認知を高めます。
  • 2. 技術力の可視化: 伝統技法とコンテンポラリーアートの融合によって技術的ポテンシャルを示します。
  • 3. ネットワーク構築: 海外のキュレーター、コレクター、ギャラリーとの直接的な接点を生み出します。

5.2 観光産業との相乗効果とツーリズム戦略

工芸ツーリズムの構成要素としては、瀬戸蔵ミュージアムや瀬戸市新世紀工芸館、品野陶磁器センターなどの見学施設が基盤となります。
さらに、つくるとこ陶芸館での本格的な作陶や絵付の体験プログラムが来訪者の理解を深め、瀬戸蔵2階「セラミックプラザ」では作家作品や産地製品の購入機会が提供されます。
加えて、窯垣の小径や陶器製橋の欄干など、地域に蓄積した「せともの」文化の空間的記憶が景観資源として滞在価値を高めます。

インバウンド需要の取り込みにおいては、台湾・香港・韓国の富裕層による工芸品購買の可能性に加え、「Japanese Ceramics」への関心が高い欧米のコレクター層への訴求が重要です。
さらに、フール・アル・カシミのネットワークを活用し、GCC諸国を中心とした中東市場へも戦略的にアプローチしていきます。

経済効果の試算としては、過去実績を基に来場者数約50万人、直接経済効果約50億円、波及経済効果約120億円、メディア露出価値約30億円相当を見込めると考えます。

5.3 教育機関との産学連携モデル

愛知県内の陶芸・工芸教育機関としては、愛知県立瀬戸窯業高等学校のセラミックデザイン科・セラミック科、名古屋芸術大学の陶芸・ガラス各コース、愛知県立芸術大学の陶磁専攻、名古屋造形大学の立体表現領域などが挙げられます。
連携プログラムの可能性として、学生の発表機会となる「hope展」(あいちの陶芸・ガラス工芸教育機関学生選抜展)の実施、国際芸術祭運営スタッフとしてのインターンシップ、海外作家と学生の共同制作によるアーティスト・イン・レジデンス、そしてプロフェッショナル向けワークショップで最新技法を学ぶ技術研修の整備が有効です。

6. 関連事業とパートナーシップ・プログラム

6.1 同時開催展覧会との相乗効果

加藤舜陶生誕110年記念展は愛知県陶磁美術館で開催され、芸術祭の会期と連動します。瀬戸を代表する陶芸家の回顧展として地域の陶芸史の文脈を提示し、伝統と現代の接続を明確にします。
加藤舜陶(1915–2003)は愛知県立窯業学校を卒業し、瀬戸の伝統技法を現代的に昇華したことで知られています。

瀬戸市美術館では「瀬戸の原風景」展が開催され、産業化以前の瀬戸の自然環境と窯業の関係を、古写真や窯道具、採掘道具などの歴史資料を通して示します。
これは、国際芸術祭のテーマ「灰と薔薇のあいまに」と対照的な歴史軸を提示し、理解を一層深めます。

また、hope展「あいちの陶芸・ガラス工芸教育機関学生選抜展」では、愛知県立瀬戸窯業高等学校、名古屋芸術大学、愛知県立芸術大学、名古屋造形大学が参加し、次世代作家の発掘・育成と教育機関同士の連携強化を進めます。展示場所は瀬戸市新世紀工芸館です。

6.2 地域連携施設のネットワーク化

瀬戸蔵ミュージアムでは、瀬戸焼の歴史を総合的に紹介し、復元された石炭窯や約1,000点の道具類を展示します。
染付や絵付の体験プログラムも用意し、2階のセラミックプラザでは作家作品と産地製品を販売します。

瀬戸市新世紀工芸館は、若手陶芸家の育成拠点として貸工房やギャラリー機能を備え、公募による3年間の入居作家制度を運用しています。
入居作家の作品展示・販売も行い、産学地域連携の核となります。

品野陶磁器センターは瀬戸市品野町に位置し、品野地区の窯元・作家による作品を展示販売します。
品野は江戸時代から続く赤津焼の中心地の一つで、産地の重層的な歴史を体現します。

窯垣の小径は瀬戸市仲洞町・窯町周辺に広がり、匣鉢やエンゴロなどの窯道具を積み上げた塀が約400m続く景観を形成します。
国の登録有形文化財(建造物)にも指定され、「せともの」文化の空間的記憶を体感できる貴重な観光資産です。

6.3 産業支援機関との技術連携

あいち産業科学技術総合センターは、産業技術支援・試験分析・技術相談を担い、陶磁器分野では釉薬分析や焼成試験、物性評価を行います。
新素材開発や環境対応技術の共同研究も期待できます。

瀬戸窯業技術センター(1921年設立、旧愛知県陶磁器試験所)は、技術指導・試験研究・人材育成を担い、XRF(蛍光X線分析装置)や熱分析装置、各種焼成窯などの設備を備えています。
釉薬調合、焼成条件の最適化、品質管理の支援を提供します。

常滑窯業技術センターとも連携し、常滑焼(無釉焼締陶器)の技術支援と情報交換を進めます。
瀬戸(施釉陶器)と常滑(焼締)の技術的補完関係は、愛知県内の窯業クラスター全体の競争力を高めます。

7. 今後の展望と工芸産業への提言

7.1 長期的影響予測とレガシー構築

今後は、シャルジャ美術財団や国際陶芸アカデミー(IAC)との恒常的な国際ネットワークを構築し、海外作家を受け入れるアーティスト・イン・レジデンスの制度化を進めます。あわせて、メゾン・エ・オブジェ(パリ)やアンビエンテ(フランクフルト)といった国際見本市へ共同出展することで、販路拡大と国際的な評価獲得を目指します。

技術革新の面では、ナノ粒子を活用した新しい質感のナノセラミックス、医療分野への展開が見込まれるバイオセラミックス、1000℃以下での低温焼成による省エネルギー型の環境適応型釉薬、そして複雑形状を実現するセラミック3Dプリンティングなどが重要になります。

サステナブル工芸の確立に向けては、再生可能エネルギーを活用した電気窯の運用やカーボンニュートラル化、リサイクル粘土や廃ガラスの釉薬への再利用、不良品の粉砕・再生利用を含む循環型システムの導入が求められます。

7.2 産業的課題と具体的対策

課題①:後継者不足

瀬戸市の陶磁器事業所数は1978年の1,666から2013年の189へと大幅に減少しています。
対策として、愛知県立瀬戸窯業高等学校の全国募集を強化し、瀬戸市新世紀工芸館の入居作家制度を拡充します。
さらに、低利融資や工房マッチングによる独立支援、移住支援金や住居支援によるUIターンの促進が有効です。

課題②:国際市場での競争力

中国・韓国・ベトナム製品との価格競争が厳しい中、千年の歴史や職人技の物語性を強化して価値を伝えることが重要です。
アート作品や限定エディションによる高付加価値化、工房訪問や作家との対話など体験価値の提供、SNSやEC、インフルエンサーを活用したデジタルマーケティングを組み合わせます。

課題③:デジタル化への適応

高齢化により情報技術活用が遅れがちな現状に対し、行政主導の研修でデジタル人材を育成し、産地全体で統一したECプラットフォームを共同構築します。
VR工房見学システムの開発や、ブロックチェーンによる真贋証明の導入も信頼性向上に資する取り組みです。

7.3 政策提言|工芸産業の持続可能な発展に向けて

提言①:工芸産業支援策の拡充

伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づく税制優遇の強化、設備投資・海外展開・後継者育成の補助金拡充、日本政策金融公庫による特別融資枠の設定、地域団体商標や地理的表示(GI)の取得支援など、知的財産の保護強化を進めます。

提言②:国際交流プログラムの推進

文化庁の文化交流使事業に工芸分野の枠を拡大し、外務省の日本文化紹介事業で陶磁器の位置づけを強化します。
自治体レベルの姉妹都市交流、JETROによる海外市場調査や商談支援を組み合わせ、実効性ある国際展開を図ります。

提言③:教育システムの再構築

小中学校での地域工芸の体験学習を必修化し、工業高校の伝統技術カリキュラムを充実させます。
芸術大学と産地の共同研究プロジェクトや、社会人向けのリカレント教育(週末陶芸塾など)を整備し、学び直しの機会を広げます。

8. 実務者向けリソースとアクセス情報

8.1 会場アクセスと周辺施設

愛知県陶磁美術館

  • 住所: 〒489-0965 愛知県瀬戸市南山口町234
  • 電話: 0561-84-7474
  • 交通:リニモ(東部丘陵線)「陶磁資料館南」駅下車、徒歩約600m
    名鉄瀬戸線「尾張瀬戸」駅からバス約15分
    東海環状自動車道「せと赤津IC」から車で約7分
  • 開館時間: 9:30~17:00(9月末まで)、9:30~16:30(10月以降)
  • 休館日: 月曜日(祝日の場合は翌火曜)※9/16、11/25は臨時開館
  • 観覧料: 一般1,000円、大学生800円(芸術祭パスポート利用可)

瀬戸市まちなか会場

  • 中心エリア: 瀬戸市銀座通り商店街、せと末広町商店街周辺
  • 主要会場:瀬戸市美術館(瀬戸市西茨町113-3)
    瀬戸市新世紀工芸館(瀬戸市南仲之切町81-2)
    旧瀬戸市立深川小学校(瀬戸市仲洞町28)
  • 交通: 名鉄瀬戸線「尾張瀬戸」駅から徒歩5-15分
  • 開館時間: 10:00~17:00
  • 休館日: 火曜日(祝日の場合は翌水曜)※11/25は臨時開館

愛知芸術文化センター

  • 住所: 〒461-8525 愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
  • 交通: 地下鉄東山線・名城線「栄」駅直結、オアシス21地下通路経由
  • 開館時間: 10:00~18:00(金曜は20:00まで)
  • 休館日: 月曜日(祝日の場合は翌火曜)

8.2 関連リンクと情報源

公式サイト

  • 国際芸術祭「あいち2025」: https://aichitriennale.jp/
  • 愛知県陶磁美術館: https://www.pref.aichi.jp/touji/
  • 瀬戸市観光情報: http://www.seto-marutto.info/

産業団体

  • 瀬戸焼振興協会
  • 愛知県陶磁器工業協同組合
  • 瀬戸陶芸協会
  • 瀬戸染付焼工業協同組合
  • 赤津焼工業協同組合

教育機関

  • 愛知県立瀬戸窯業高等学校: http://www.setoyogyo-h.aichi-c.ed.jp/
  • 名古屋芸術大学: https://www.nua.ac.jp/
  • 愛知県立芸術大学: https://www.aichi-fam-u.ac.jp/

技術支援機関

  • あいち産業科学技術総合センター: https://www.aichi-inst.jp/
  • 瀬戸窯業技術センター(あいち産業科学技術総合センター瀬戸窯業試験場):https://www.aichi-inst.jp/seto/

関連施設

  • 瀬戸蔵ミュージアム: https://www.setogura-museum.jp/museum/
  • 瀬戸市新世紀工芸館: https://www.seto-cul.jp/new-century/
  • 瀬戸市美術館: https://www.seto-cul.jp/seto-museum/

まとめ|工芸産業のパラダイムシフトへの契機

国際芸術祭「あいち2025」は、千年の歴史を持つ陶都・瀬戸において、伝統工芸とコンテンポラリーアートが交差する歴史的転換点をもたらします。
芸術監督フール・アル・カシミの国際的視座は、日本の陶磁文化をグローバルサウスの文脈から再評価し、欧米中心のアート言説とは異なる価値体系を導入します。

愛知県陶磁美術館では、谷口吉郎建築の空間性を活かし、国内屈指の陶磁コレクションと13組の現代アーティストの作品が対話します。瀬戸市まちなかでは産業遺産や工芸関連施設を会場とし、地域固有の素材・技術・歴史を国際的なプラットフォームで可視化します。

「灰と薔薇のあいまに」というテーマは、素材の変容や焼成による創造と破壊の中間状態、地質学的時間性と人間の創作時間の交差といった多層的な意味を持ちます。詩人アドニスの詩と、瀬戸の産業史における「灰のような黒い空=繁栄の象徴」という記憶が呼応し、人新世批評における人間中心主義を相対化する視座を与えます。

工芸産業のプロフェッショナルにとって、本芸術祭は次の戦略的機会を提供します。

  • 技術革新: 伝統技法の現代美術への応用による新しい表現領域の開拓
  • 市場開拓: グローバルサウスのネットワークを活用した新興市場へのアクセス
  • 人材育成: 国際的キュレーション実践から学ぶ次世代育成モデル
  • ブランディング: 「せともの」の語義を日用品からアート表現へと拡張
  • 産業連携: ファインセラミックス、碍子産業など派生分野との相乗効果

特に重要なのは、デジタル時代における伝統技術の価値再定義です。3DスキャニングやAI解析、NFT認証などの技術と、千年にわたる手仕事の技を融合させることで、工芸は新たな市場価値と文化的意義を獲得できます。クロスボーダーECやSNSマーケティング、バーチャル展示といったデジタル戦略は、地理的制約を超えて国際的なプレゼンスを構築する有効な手段になります。

今後の課題は、本芸術祭のレガシーを恒常的な産業振興システムへとどのように転換するかです。アーティスト・イン・レジデンスの制度化、国際見本市への共同出展、教育機関との産学連携強化など、具体的なアクションプランを積み重ねる必要があります。行政・産業団体・教育機関・作家の四者連携により、持続可能な工芸エコシステムを構築することが地域の未来を決定づけると考えます。

国際芸術祭「あいち2025」は、単なる文化イベントではありません。日本の伝統工芸が21世紀のグローバル社会で生き残り、発展していくための戦略的な実験の場です。千年の歴史が培った技術と素材を現代美術の文脈で再解釈し、次の千年へと継承していく——その歴史的使命を、私たちは今、目撃しようとしています。

免責事項
本記事は公式発表資料および公開情報に基づいて作成していますが、会期中に展示内容や運営体制が変更される可能性があります。
最新情報は公式サイト 国際芸術祭「あいち2025」(https://aichitriennale.jp/)でご確認ください。

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