いつもの料理を盛り付けるだけで、日々の暮らしに豊かな時間をもたらしてくれる「作家もの和食器」。
しかし、日本の美意識や手仕事の価値に惹かれる海外デザイナーや新規読者にとって、最初の「一客」を選ぶのは少しハードルが高く感じられるかもしれません。
この記事では、工芸ジャポニカの専門的な知見と事実確認に基づき、日々の生活に寄り添う器選びのポイントを解説します。
- 作家もの和食器は、作家名や知名度よりも先に、自分のライフスタイルに合う「用途」と「素材(土物か石物か)」で選ぶことが、失敗を減らしやすい考え方です。
- 初心者や海外ユーザーが最初に揃えるなら、出番が多く始めやすい器として「蕎麦猪口(そばちょこ)」や「5〜6寸の平皿」、あるいは生活に根ざした「飯碗(めしわん)」から検討するのが良い候補となります。
- 日本のやきものを語るうえで重要な視点は、柳宗悦(やなぎ むねよし)が提唱した「民藝(用の美)」の精神にあり、手仕事の個体差や、使い込むことで育つ経年変化を楽しむことにあります。
目次
【結論】「飾る」のではなく「使う」:作家もの和食器の選び方
作家ものの器と聞くと、美術品のように大切に飾っておくものをイメージするかもしれません。
しかし、日本のやきものを語るうえで欠かせないのが、日々の暮らしのなかで使われることによって輝きを増す「民藝(用の美)」の思想です。
この思想を提唱した思想家の柳宗悦(やなぎ むねよし)は、名もなき職人が作る日用品の中にこそ日常の道具に宿る美があるとし、日本民藝館を創設しました。
つまり、作家ものの和食器を選ぶ際にもっとも大切なのは、「日常使い」ができるかどうかという視点です。
日本民藝館
- 開館時間:10:00 〜 17:00
- 開館日:日本民藝館の休館日は毎週月曜(ただし祝日の場合は開館し、翌日休館)、展示替期間、年末年始となっております。
- 入場料:一般 1500円、大学生・高校生 800円、中学生以下 無料
- 住所:〒153-0041 東京都目黒区駒場4-3-33
- アクセス:京王井の頭線「駒場東大前駅」西口から徒歩7分、小田急線「東北沢駅」東口から徒歩15分
- 公式サイト:日本民藝館 公式
最初に見るべきは「用途・サイズ・洗いやすさ」
憧れの作家名や価格帯だけで決めるのではなく、「朝食のパンを乗せるのか」「夕食の取り皿にするのか」といった具体的なシーンを想像してみてください。海外の読者にとっても、単なるアートピースとしてではなく、実用の道具として和食器を捉え直すことで、日本の手仕事が持つ精神性をより深く理解できるはずです。
用途が決まれば、自然と必要なサイズや形が見えてきます。そして、手に持ったときの重さや、洗いやすい形状かどうかといった道具としての機能性を確認することが、長く付き合える器と出会う第一歩となります。
失敗しないための基本知識:土物(陶器)と石物(磁器)
和食器を選ぶうえで、初心者がつまずきやすいのが素材の違いです。
一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会が案内する全国の多様な工芸品のなかでも、やきものは原材料や技法によって多種多様ですが、一般的に和食器は大きく「土物(陶器)」と「石物(磁器)」の2つに大別して語られます。
ご自身のライフスタイルと照らし合わせ、どちらの素材が適しているかを見極める必要があります。
温もりと経年変化を楽しむ「土物(陶器)」
土物(陶器)は、陶土と呼ばれる粘土を主原料として作られます。ぽってりとした厚みと、指先に伝わる土の温もりが特徴です。焼成温度が低いため目に見えない無数の気孔があり、吸水性を持っています。
そのため、作品によっては使う前にお米のとぎ汁で煮沸する「目止め(めどめ)」という作業が推奨される場合があります。
使い込むほどにお茶や料理の水分が馴染み、色合いや風合いが変化していく「景色」を育てることができるのが、土物の奥深さです。
日常使いと耐久性に優れた「石物(磁器)」
一方、石物(磁器)は、陶石と呼ばれる石を細かく砕いた粉を主原料としています。高温で焼き締められるためガラス質が多く含まれ、叩くと澄んだ高い音が鳴ります。土物に比べて素地が硬く薄く作ることができ、表面がなめらかです。
吸水性がほとんどないため色移りしにくく、実用面で扱いやすい傾向があります。
ただし、電子レンジや食洗機に対応しているものも多い一方で、上絵付けや金銀彩が施された作家もの、極端に薄手の作品などは家電非対応のケースも少なくありません。購入時は必ず製品表示や作家の取扱説明を優先して確認してください。
初心者&海外読者へ:最初の一客におすすめの万能な器
具体的に何から買えばいいか迷う方へ、和洋問わず活躍し、最初の一客として選びやすい汎用性の高い候補を3つご紹介します。
多用途の極み「蕎麦猪口(そばちょこ)」
和食器の中でも用途の広さで際立つのが「蕎麦猪口(そばちょこ)」です。もともとは蕎麦のつけ汁を入れるための器ですが、その絶妙なサイズ感から、小鉢としてお浸しを盛り付けたり、食後のデザートカップにしたりと幅広く活躍します。
ハンドルがないため収納スペースを取りにくく、海外の読者にとっては、コーヒーカップやティーカップとしても日常に取り入れやすいアイテムです。
和洋問わず活躍する「5寸・6寸皿(15-18cm)」
平皿を選ぶなら、まずは「5寸〜6寸(約15〜18cm)」のサイズがひとつの基準になります。
日本の食卓において、メインのおかずの取り皿として、あるいはケーキなどのデザート皿として出番の多いサイズ感です。
海外のライフスタイルにおいても、タパス(小皿料理)や前菜、チーズを乗せるプレートとして無理なく馴染みます。少し深さのある形状を選べば、汁気のある料理にも対応でき、さらに使い勝手が増します。
日本の食文化の象徴「飯碗(めしわん)」
器を手に持って食べるという日本独自の食文化を感じられるのが「飯碗(めしわん)」です。毎日手で包み込み、直接口に触れる器だからこそ、作家のこだわりや手仕事の温もりがダイレクトに伝わります。
重すぎないか、高台(底の足の部分)に指がしっかり掛かるかなど、自分の手にしっくりくるものを選ぶことで、毎日の食事が一段と豊かな時間へと変わります。
産地で選ぶ:好みの作風と出会う
日本のやきものは、採れる土や歴史的背景によって産地ごとに異なる顔を持っています。
ここでは、工芸ジャポニカでも検索されることの多い4つの産地をご紹介します。
選択肢の広さと日常使い「美濃焼(みのやき)」
岐阜県で作られる「美濃焼」は、日本のセラミックス製品(陶磁器)生産量の半数以上を占める巨大な産地です。
日常使いしやすい手頃な価格帯のプロダクトから、芸術性の高い作家ものまで幅広い選択肢があります。
「織部」や「志野」など多彩な釉薬の表現があり、初心者が好みの作風を探す際に選びやすい産地の一つです。
料理を引き立てる土の味わい「唐津焼(からつやき)」
佐賀県で作られる「唐津焼」は、「一楽、二萩、三唐津(いちらく にはぎ さんからつ)」と茶人たちから愛されてきた歴史を持ちます。
ざっくりとした粗い土の質感と、草木などをモチーフにした素朴な鉄絵が特徴です。器単体で派手さを主張するのではなく、料理を盛り付けたときに全体が調和する引き算の美を持っており、料理好きの方から根強い人気があります。
丈夫でおおらかな南国の風「壺屋焼(つぼややき)」
沖縄県那覇市を中心に作られる「壺屋焼(別名:やちむん)」は、南国の風土を思わせるぽってりとしたフォルムと、力強く鮮やかな絵付けが魅力です。
比較的厚みがあり、日常使いに親和性が高い作例が多いため、日々の家庭料理をおおらかに受け止めてくれる頼もしい器として親しまれています。
余白の美とやわらかな色調「萩焼(はぎやき)」
山口県で作られる「萩焼」は、やわらかな土の風合いと、ふんわりとした優しい色調が特徴です。過度な装飾を抑え、土の配合や釉薬の具合で生み出される余白の美は、和食はもちろんモダンな洋の食卓にも調和します。吸水性が高いため、使い込むことで色合いが変化する「萩の七化け」と呼ばれる経年変化を楽しめる産地です。
よくある質問:作家もの和食器 Beginner FAQ
最後に、作家もの和食器を購入する際によく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 作家もの和食器と量産品は具体的に何が違う?
大きな違いは、手仕事ゆえの「一点もの」としての個体差です。工場で均一に作られる量産品とは異なり、ろくろを回したときの手跡や、窯の中の炎の当たり具合によって生じる釉薬のムラ、僅かな形の歪みなどが残ります。
これらは不良品ではなく、作り手の息遣いや意図せぬ自然の作用がもたらす風景として評価されます。
Q. 欠けたり割れたりした場合はどうすればいい?
お気に入りの器が欠けてしまっても、状態によっては修理を検討できる場合があります。日本には、割れたり欠けたりした部分を漆で接着し、金や銀の粉で装飾して修復する「金継ぎ」という伝統技法があります。
傷跡を新たな景色として楽しむこの文化を取り入れることで、一つの器を長く使い続けられる可能性があります。
Q. 海外で使う場合、どのような基準で選ぶべき?
ナイフやフォークなどの金属製カトラリーを多用する食文化の場合、土物(陶器)の表面には傷がつきやすいため注意が必要です。
また、大型の食洗機を日常的に使う家庭では、デリケートな作家ものは破損のリスクがあります。
そのため、海外での使用を想定する場合やギフトには、比較的傷に強く扱いやすい「石物(磁器)」ベースのシンプルな平皿などから検討すると、生活様式とのミスマッチを防ぎやすくなります。購入の際は、各作家のメンテナンス方法を確認してご使用ください。
