LOEWE Foundation Craft Prize 2026の最高賞は、韓国の陶芸家Jongjin Parkによる《Strata of Illusion》(2025年発表)。
133カ国・地域から5,100件を超える応募を集めた第9回は、2026年5月12日にシンガポールで発表され、翌13日からNational Gallery Singaporeでファイナリスト展が開幕しました。
日本からは中平美紗子、田中信行、吉積彩乃の3名が選出されています。
世界の現代工芸に関わる人なら、5月12日という日付をカレンダーに入れていたかもしれません。
工芸ジャポニカ編集長もその一人として、シンガポールからの発表を受け取りました。
この記事では、受賞者・特別賞・日本人ファイナリストの情報を、LOEWE Foundation公式・National Gallery Singapore公式などの一次情報と、メディア情報を照合しながら整理するとともに、今年のファイナリスト構成から読み取れる現代工芸の評価軸について、工芸メディアとしての視点を交えて解説します。
展示情報、FAQ、作家別解説も含めてまとめていますので、コレクター・ギャラリスト・工芸作家の方のご参考になれば幸いです。
目次
LOEWE Foundation Craft Prize 2026の受賞者は誰ですか?

2026年の最高賞は、韓国の陶芸家Jongjin Parkが受賞。作品《Strata of Illusion》(2025年発表)は、紙に着色した磁器スリップ(slip:陶磁器用の泥漿〔でいしょう〕状素材)を重ね、焼成の熱と重力によって形を決定する彫刻的な表現で選ばれました。
2026年5月12日、LOEWE Foundationは、National Gallery Singaporeで授賞式を開催し、第9回Craft Prizeの受賞者を正式に発表しました。
(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|LOEWE公式)
受賞作《Strata of Illusion》とは

《Strata of Illusion》(「幻想の地層」とも読める)は、椅子のような形状を持ちながら、明確な機能の境界を持たない彫刻作品です。Park氏は紙に着色した磁器スリップをコーティングし、矩形(くけい)に積み重ねた後、窯(かま)の中で焼成。この過程で紙は燃え消え、熱と重力によって形状が微妙に変形・崩落します。完成形は作家がすべてをコントロールするのではなく、素材と物理法則が最終形に参与するという点で、いわゆる「器」や「家具」の枠を超えた制作態度を示しています。
審査員団はこの作品について「陶芸に対する期待を覆す彫刻的な存在感と、焼成プロセスにおける紙の消失という詩的な表現」を評価したと報じられています。Park氏はソウルを拠点に活動し、ソウル女子大学でクラフト&コレクタブルデザインの助教授も務めています。
(参照:Loewe Craft Prize 2026 winner announced|Wallpaper*)
(参照:The LOEWE Foundation Craft Prize 2026 Spotlights Its Finalists At The National Gallery Singapore|ELLE Singapore)
特別賞(Special Mention)に選ばれた2組
最高賞に加え、今年は2組が特別賞を受賞しました。
Baba Tree Master Weavers × Álvaro Catalán de Ocón(スペイン)
ガーナのアルチザン集団Baba Tree Master WeaversとスペインのデザイナーÁlvaro Catalán de Ocónによる共同作品《Frafra Tapestry》(2024年)。ガーナ北部グルンシ地方の円形集合住宅をドローン撮影した俯瞰(ふかん)映像をもとに、エレファントグラスを使った伝統的なバスケタリー技法で大判のタペストリーに織り上げた作品です。

Graziano Visintin(イタリア)
イタリアの彫金作家Graziano Visintinによる《Collier》(2025年)は、薄い金板から構成された微細な立方体にニエロ(niello:黒色の金属装飾技法)を施した2本のネックレス。古代から受け継がれてきた金工技法を現代の装身具として昇華させた作品です。

(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|LOEWE公式)
日本人ファイナリストは誰が選ばれましたか?
今年のファイナリスト30名の中から、日本人作家は中平美紗子(テキスタイル・タペストリー)、田中信行(漆芸〔しつげい〕・乾漆〔かんしつ〕)、吉積彩乃(ガラス)の3名が選ばれています。素材も表現の方向性も異なる3者が揃ったことは、日本における工芸実践の多様性をそのまま示しています。
(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|KOGEI STANDARD)
中平美紗子(Misako Nakahira)── タペストリー織り

KOGEI STANDARDによれば、中平美紗子は京都を拠点に、タペストリーを通した縞模様の再解釈をテーマに制作を行っている作家です。出品作品は《Interaction #YB》(2024年)。羊毛と綿を素材とし、1134×1023×8 mmのタペストリー作品として発表されました。

中平氏はインタビューの中で、技法とコンセプトのどちらか一方だけでは作品として成立しないという考えを語っており、素材と構想の緊張関係が制作の核にあることがうかがえます。ウールを中心とした素材選択と、自身で色を染める実践によって独自の色彩言語を構築している作家です。
(参照:Misako Nakahira Interview|Crafters of Today)
田中信行(Nobuyuki Tanaka)── 漆芸・乾漆

田中信行は1959年生まれ。東京藝術大学で漆芸を学び(学部1983年卒・修士1985年修了)、現在は金沢美術工芸大学で漆芸を教えながら制作を続ける、国際的に評価の高い漆芸家です。KOGEI STANDARDは「金沢で漆を現代的な視点から再考することを軸に制作活動を展開する」作家として紹介しています。
作品の核にあるのは「乾漆(かんしつ)」という技法です。麻布(あさぬの)に漆(うるし)を含浸させて積層し、芯材を取り除いた後、内外の表面を漆で仕上げます。今回出品された《Inner side – Outer Side 2021 N》(2021年)は、高さ2メートルを超える大型の器形(きけい)彫刻。外面は鏡面仕上げの漆黒(しっこく)、内面はマットな黒で、光の当たり方によって作品の「顔」が大きく変わります。Apollo Magazineは、田中氏の作品を「強さと崩壊の間にあるような形態」として紹介しています。

ロンドンのV&A(ヴィクトリア&アルバート博物館)やニューヨークのメトロポリタン美術館、金沢21世紀美術館など、国内外の主要機関に作品が収蔵されており、漆という素材を彫刻と同等の言語で国際的な舞台に立たせ続けてきた先駆者です。
(参照:The Loewe Foundation pushes craft out of its comfort zone|Apollo Magazine)
(参照:Nobuyuki Tanaka|A Lighthouse called Kanata)
吉積彩乃(Ayano Yoshizumi)── ガラス

KOGEI STANDARDによれば、吉積彩乃は富山を拠点に、フォーヴィスムと日本の「間(ま)」の概念から着想を得たガラス作品を制作する作家です。出品作《ICON #2507 Group》(2023-2025年)は、ガラスという素材の透過性・屈折性・物質感を探求する連作として発表されました。

吉積氏の詳細なバイオグラフィーについては、公式ファイナリストページおよびギャラリー情報をあわせてご参照ください。
(参照:Craft Prize 2026 Finalists|LOEWE公式)
| 作家名 | 主素材 / 技法 | 出品作品 | 制作年 | 拠点 |
|---|---|---|---|---|
| 中平美紗子(Misako Nakahira) | テキスタイル・タペストリー(ウール・綿) | Interaction #YB | 2024 | 京都 |
| 田中信行(Nobuyuki Tanaka) | 漆芸・乾漆(麻芯・漆塗) | Inner side – Outer Side 2021 N | 2021 | 金沢 |
| 吉積彩乃(Ayano Yoshizumi) | ガラス | ICON #2507 Group | 2023-2025 | 富山 |
※作家情報はLOEWE Foundation公式・KOGEI STANDARD・各関連報道をもとに工芸ジャポニカ編集部が整理しました。
ファイナリスト30名は、どのような素材・技法で構成されていますか?
2026年のファイナリスト30名は、陶芸・テキスタイル・漆芸・ガラス・金属・木工・製本など幅広い素材領域にまたがります。今年の特徴として、単一素材の技術的卓越性だけでなく、素材と物理法則の「交渉」「崩壊」「変換」を主題にした作品が複数選ばれている点が注目されます。
(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|LOEWE公式)
ファイナリスト30名一覧
| 作家名 | 国・地域 | 素材カテゴリ(編集部分類) |
|---|---|---|
| Baba Tree Master Weavers × Álvaro Catalán de Ocón | スペイン | テキスタイル(象草・バスケタリー) |
| Jobe Burns | 英国 | 金属(スチール・漆仕上げ) |
| Soohyun Chou | 韓国 | 金属・立体 |
| Morten Løbner Espersen | デンマーク | 陶芸(釉薬〔ゆうやく〕かけストーンウェア) |
| Liam Fleming | オーストラリア | ガラス |
| Oskar Gustafsson | スウェーデン | 木工 |
| Susan Halls | 英国 | 陶芸 |
| Gjertrud Hals | ノルウェー | テキスタイル(コットン・リネン・樹脂) |
| Chia-Chen Hsieh | 台湾 | 竹工芸 |
| Adelene Koh | シンガポール | 製本・紙 |
| Maria Koshenkova | デンマーク | ガラス |
| Jong In Lee | 韓国 | 木工 |
| Somyeong Lee | 韓国 | 陶芸・混合素材 |
| Misako Nakahira(中平美紗子) | 日本 | テキスタイル・タペストリー |
| Fadekemi Ogunsanya | ナイジェリア | テキスタイル(刺繍・ビーズ) |
| Jieun Park | 韓国 | 金属(銀) |
| Jongjin Park(受賞者) | 韓国 | 陶芸(紙・磁器スリップ) |
| Rafael Pérez Fernández | スペイン | 陶芸 |
| Dorothea Prühl | ドイツ | ジュエリー(チタン・金) |
| Kirstie Rea | オーストラリア | ガラス |
| Vivi Rosa | ブラジル | 混合素材 |
| Hervé Sabin | ハイチ | 木工 |
| Xanthe Somers | ジンバブエ | 陶芸(織り粘土) |
| Coco Sung | 韓国 | ジュエリー・混合素材 |
| Nobuyuki Tanaka(田中信行) | 日本 | 漆芸・乾漆(麻・漆) |
| Graziano Visintin(特別賞) | イタリア | ジュエリー(金・ニエロ) |
| Rayah Wauters | ベルギー | テキスタイル・立体 |
| Nan Wei | 中国 | 漆芸 |
| Jane Yang-D’Haene | アメリカ | 陶芸(ストーンウェア) |
| Ayano Yoshizumi(吉積彩乃) | 日本 | ガラス |
※素材カテゴリはLOEWE公式ファイナリスト情報および関連報道をもとに、工芸ジャポニカ編集部が読者向けに分類したものです。公式の分類・素材表記とは一部異なる場合があります。
(参照:Craft Prize 2026 Finalists|LOEWE公式)
素材別に見る2026年の傾向
今年の30名を素材で分類すると、陶芸・テキスタイル・ガラスが特に目立ちます。日本からは漆芸・テキスタイル・ガラスと、素材も表現も重複しない3名が選ばれており、今回の選考が素材の横断性を意識していることが伝わります。
今年の評価軸は「素材の変換」と「境界の横断」
編集部が今年のファイナリスト構成全体を見渡して感じるのは、素材そのものが変容するプロセスを作品に組み込んだ制作への強い関心です。
受賞作《Strata of Illusion》では紙が燃えながら消え、磁器の形が変形します。田中信行の《Inner side – Outer Side》では、麻布に漆を幾重にも積み上げる時間の堆積(たいせき)が形になります。Baba Tree Master Weaversの特別賞作品は、ガーナの集合住宅の俯瞰映像という「現代の眼」を伝統的な草編み技法で再翻訳します。こうした作品に共通するのは、素材と作家の一方的な支配関係ではなく、素材・プロセス・物理法則が最終形に参与するという姿勢です。
工芸の評価が「伝統の正確な継承」だけではなく、「素材との対話的な実践」へと広がっている流れは、LOEWEクラフト賞の近年の選出傾向からも読み取れる方向性です。
LOEWE Craft Prizeは、なぜ現代工芸で重要なのですか?
【定義】LOEWE Foundation Craft Prizeとは
LOEWE Foundation Craft Prizeは、2016年にLOEWE Foundation(スペイン・マドリード)が創設した国際工芸賞。
技術的卓越性・革新性・素材への深い理解・芸術的意図を選考基準に掲げ、毎年世界中の工芸家を対象に公募。
第9回となる2026年は133カ国・地域から5,100件を超える応募がありました。
賞金は最高賞が€50,000、特別賞が各€5,000と報じられています。
LOEWEは1846年にマドリードで革工芸の集団工房として創業し、現在はLVMHグループ傘下のスペインのラグジュアリーブランドです。この工芸との歴史的な結びつきを背景に、当時のクリエイティブディレクターJonathan Andersonによって「今日の文化における工芸の重要性を認める」ことを目的として賞が創設されました。
評価されるのは「伝統性」だけではない
この賞が工芸の世界で重要なのは、「伝統的な技法の正確な継承」を主な評価軸としていないからです。選考基準として公式に示されているのは、技術的な卓越性とともに「革新性(innovation)」「芸術的意図(artistic vision)」「素材への深い理解」という言葉です。選出されたファイナリストの作品群は「バランス・不安定さ・緊張の間の慎重な交渉としての制作(making as a careful negotiation between balance, instability and tension)」として捉えられています。
審査員の構成と2025年受賞者・青木邦真氏の審査員参加

今年の審査員には、デザイン批評家のDeyan Sudjic、デザイナーのPatricia Urquiola、建築家のFrida Escobedo、メトロポリタン美術館のAbraham Thomas、ルーブル美術館装飾芸術部門長のOlivier Gabet、日本民藝館館長・デザイナーの深澤直人らが名を連ねています。またLOEWEの新クリエイティブディレクターJack McColloughとLazaro Hernandezが初めて審査員として参加しました。さらに、2025年受賞者である青木邦真(あおき くにまさ)も審査員として加わっています。
前年受賞者が翌年の審査員に加わるこの構造は、賞の継続性と作家間の対話を示すものとして注目できます。青木邦真氏が2026年の審査においてどのような個別判断を行ったかは公表情報からは分かりませんが、日本の工芸実践が国際的な評価の場にどう関与しているかを考えるうえで、その存在は見逃せません。
(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|KOGEI STANDARD)
LOEWEがクラフト賞を主催する意味
率直に言うと、工芸ジャポニカがこの賞を追い続ける理由の一つは、ここに微妙な緊張感があるからです。LOEWEはラグジュアリーブランドであり、その財団が主催する賞は、必然的にブランド価値と工芸価値が混在する場でもあります。
しかしLOEWEクラフト賞が工芸界で一定の信頼を得ているのは、選考の透明性、審査員の顔ぶれの専門性の高さ、そして受賞者が単なる話題提供に終わらない実績を持ち続けていることによります。「ラグジュアリーブランドが認めた工芸」という文脈を、そのまま受け取る必要はありません。ただ、この賞が示す評価の方向性は、現代工芸の国際的な議論を可視化するという意味で、追いかける価値があります。
展示はどこで、いつまで見られますか?

ファイナリスト30名全員の作品が、National Gallery Singaporeで2026年6月14日まで展示されています。入場は無料で、開館時間は毎日10:00〜19:00(最終入場18:30)です。訪問前に公式情報で最新状況をご確認ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会期 | 2026年5月13日(水)〜 6月14日(日) |
| 会場 | National Gallery Singapore |
| 住所 | 1 St Andrew’s Road, Singapore 178957 |
| 入場料 | 無料 |
| 開館時間 | 毎日 10:00〜19:00 |
| 最終入場 | 18:30 |
| 出展数 | ファイナリスト30名の全作品 |
(参照:LOEWE FOUNDATION Craft Prize 2026|LOEWE公式)
(参照:National Gallery Singapore公式)
シンガポールで開催される意味
LOEWEクラフト賞の展示会場は毎年変わります。2024年はパリのパレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)でした。今年のシンガポール開催についてLOEWE Foundationは「現代工芸への関心が高まっている都市に賞を届けること」を目的として説明しています。
これは単なるロケーション選択の問題ではないと工芸ジャポニカは見ています。シンガポールは、アート・デザイン・コレクタブル領域の国際的な接点を持つ都市であり、ローカルのコレクターや若い世代の工芸作家にとって、国際的なクラフト評価の現場を間近で体験できる機会という意味でも、今年の会場選択は注目に値します。ファイナリストの一人でシンガポール出身のAdelene Koh氏も、若い世代の工芸への関心やメンタリングの必要性に触れながら、LOEWEの賞がシンガポールに来ることの意義を語っています。
(参照:Loewe Craft Prize 2026 winner announced|Wallpaper*)
コレクター、ギャラリスト、工芸作家は何を見るべきですか?
LOEWEクラフト賞の発表を「誰が受賞したか」だけで読み終えるのはもったいないことです。素材・プロセス・作家ステートメント・展示空間での見え方という4つの軸から作品を見ることで、現代工芸の評価基準の輪郭が見えてきます。
コレクターが見るべきポイント
国際的な工芸賞のファイナリストという位置付けは、作家の評価の一つの指標になります。ただし、賞歴は作品の価値のすべてではありません。購入を検討する際は、素材の保存性・サイズ・取り扱いギャラリー・価格帯を個別に確認することが大切です。価格は作品・作家・流通経路により異なりますので、必ず取り扱いギャラリーまたは作家の公式情報を参照してください。
ギャラリストが見るべきポイント
今年のファイナリスト構成で注目したいのは、単なる「器物(きぶつ)」の完成度ではなく、展示空間との関係性を前提にした作品が複数あることです。田中信行の漆芸大型彫刻がその典型ですが、中平美紗子のタペストリーも壁面空間との対話を前提とした表現です。ギャラリースペースで扱うことを念頭に作品を見ると、素材・スケール・展示形式の選択が作家のコンセプトと一体であることがわかります。
工芸作家が見るべきポイント
次回LOEWEクラフト賞への応募を検討する作家の方へ:今年の選考で繰り返し強調されているのは「技術的な達成+作家自身の芸術的意図の言語化」というセットです。素材の扱いが卓越しているだけでなく、なぜその素材でその形を作るのかという問いに対して、自分の言葉で答えられるかどうかが問われます。英語での作品ステートメントの準備も実践的な課題です。なお2027年editionの応募受付は2026年6月以降に開始予定と報じられています。最新情報はLOEWE Foundation公式サイトをご確認ください。
(参照:Loewe Craft Prize 2026 winner announced|Wallpaper*)
現代工芸の国際賞を見る際の10の確認ポイント
- 作家名と国籍・活動拠点
- 作品名と制作年
- 主素材と技法の名称
- 素材をどう扱っているか(制作プロセス)
- 作家が語る制作の意図・問い
- 作品のサイズと展示形式
- 展示空間との関係性
- 作家ステートメントの有無(英語対応の有無)
- 取り扱いギャラリー・公式情報の有無
- 過去の受賞歴・展示歴(一次情報で確認)
LOEWE 2026から、日本の工芸は何を学べますか?
「日本人が3名選ばれた」という事実は、出発点として受け止めるべきことです。次に問うべきは、それぞれがどのような実践として評価されたのか、という個別の問いです。
日本人ファイナリストを「日本代表」として消費しない
中平美紗子・田中信行・吉積彩乃の3名は、それぞれが異なる素材・異なる問い・異なる制作背景を持つ作家として選出されています。3名を「日本の工芸」という括りでひとまとめにして論じることには、個々の実践に対して誠実でない面があります。
田中信行の乾漆作品は、漆という素材の光学的特性と時間の堆積を彫刻言語として展開した結果として評価されています。中平美紗子のタペストリーは、ウールという素材・自家染色・壁面との対話という独自の制作文脈から生まれています。吉積彩乃のガラス作品は、素材の物質感と光の関係を探求する独立した実践として立っています。
3名が「日本」から選ばれたのは結果であって、それぞれの作家が「日本を代表する工芸」を作ろうとしているわけではありません。
国際賞は評価軸を可視化する
LOEWEクラフト賞が今年の選考を通じて示したことは、現代工芸における一つの評価の重力のようなものです。「素材と制作プロセスの関係を問い直す実践」「工芸・彫刻・デザインの境界を意図的に曖昧にする表現」「個人の技術と共同制作・集団知の融合」といった方向性が、今年の受賞と特別賞を通じて見えてきます。
これは「LOEWEが正解を決めている」という話ではありません。一つの有力な国際的プラットフォームが、今どこに照準を合わせているかを示している、という読み方が正確です。
工芸ジャポニカ編集長コメント
日本の工芸が国際的な文脈で語られるとき、「伝統の継承」という言葉がどうしても先立ちます。しかし今年の3名の日本人ファイナリストを見れば、それぞれが「伝統の保存者」としてではなく、素材と向き合いながら現在の問いに答えようとしている作家として選ばれていることがわかります。「日本の工芸が評価された」という受け取り方ではなく、「それぞれの作家が、それぞれの実践として評価された」という読み方が、作家たちへの正直な敬意だと思います。
FAQ:LOEWE Foundation Craft Prize 2026についてよくある質問
受賞者・展示・審査基準・応募方法など、よくある質問に一問一答でお答えします。
- Q1. LOEWE Foundation Craft Prize 2026の受賞者は誰ですか?
- 韓国の陶芸家Jongjin Parkです。受賞作は《Strata of Illusion》(2025年)です。賞金については、複数の報道でも€50,000と伝えられています。
- Q2. ロエベ クラフト プライズ 2026の日本人ファイナリストは誰ですか?
- 中平美紗子(テキスタイル・タペストリー、京都)、田中信行(漆芸・乾漆、金沢)、吉積彩乃(ガラス、富山)の3名が選出されています。
- Q3. ファイナリスト展示はどこで開催されていますか?
- シンガポールのNational Gallery Singaporeで開催されています(所在地:1 St Andrew’s Road, Singapore 178957)。会期は2026年5月13日〜6月14日、入場無料、開館時間は毎日10:00〜19:00(最終入場18:30)です。訪問前に公式サイトで最新情報をご確認ください。
- Q4. LOEWEクラフト賞の審査基準は何ですか?
- 公式には「技術的な卓越性・革新性・素材への深い理解・芸術的意図」が基準として示されています。伝統的な技法の継承だけでなく、それをどのように現代的なコンセプトと結びつけているかが重視されます。
- Q5. ファイナリストは何名選ばれていますか?
- 2026年のファイナリストは30名です。応募総数は133カ国・地域から5,100件超とされています。国・地域数の表記は媒体により差があるため、本文では人数と素材領域を中心に整理しています。
- Q6. 工芸作家として次回応募したい場合はどうすればよいですか?
- 応募条件・締切・提出方法は年度ごとに更新されます。2027年editionの応募受付は2026年6月以降に開始予定と報じられています。最新情報はLOEWE Foundation公式サイトでご確認ください。
- Q7. 今年はいつ、どこで受賞発表されましたか?
- 2026年5月12日(火)、シンガポールのNational Gallery Singaporeで開催された授賞式にて発表されました。
おわりに
LOEWE Foundation Craft Prize 2026は、133カ国・地域から5,100件を超える応募の中から、Jongjin Parkの《Strata of Illusion》を最高賞に選びました。日本からは中平美紗子・田中信行・吉積彩乃の3名がファイナリストとして選出されています。
受賞を「日本が評価された」という国別の物語で読まず、そして作家一人ひとりの制作実践を、素材と問いの固有の文脈で読もうとすると鑑賞の深みが増します。
展示は6月14日まで続きます。
比較表や受賞情報だけではわからない「実物のスケールと素材感」をその目で確かめてみてください。
国際発信・英語でのポートフォリオ・展示準備など、海外への発信に関するご相談を承っています。まずはお気軽にお問い合わせください。
ギャラリー・ホテル・法人の方へ
現代工芸の空間演出・コレクション導入のご相談も承っています。Kogei Japonicaまでお気軽にご連絡ください。



