南部鉄器は、その重厚なデザインと優れた耐久性で知られる一方、適切な手入れが求められる鉄製品でもあります。特にサビは、鉄器を長く美しい状態で保つために避けたい問題の一つです。
この記事では、南部鉄器のサビ防止方法について、保管時の注意点やサビが発生した場合の対処法を詳しく解説します。正しい保管方法や、サビを予防するためのポイントを知ることで、南部鉄器を長く愛用し、その魅力を最大限に引き出すことができるでしょう。
南部鉄器とは?
南部鉄器は、岩手県盛岡市と奥州市を中心に作られる伝統的な鋳物工芸品で、その歴史は17世紀に遡ります。現在もその美しさと実用性から、国内外で高く評価されています。
ここでは、南部鉄器の歴史から主な特徴、どのような製品が作られているのかを解説していきます。
南部鉄器の歴史と特徴
南部鉄器の歴史は、1659年、盛岡藩主が京都から小泉仁左衛門を招き、茶の湯釜を作らせたことに始まります。この技術が南部鉄瓶の起源となり、次第に鉄器全般へと発展しました。
当時は大名たちへの贈り物として茶の湯釜が主に作られ、明治時代以降は湯釜を小さくして日常的に使えるよう茶器として広く親しまれるようになりました。また、南部鉄器の特徴は、重厚で耐久性が高い点です。
特に鉄瓶は、鉄製でありながら精緻なデザインが施され、使い込むことで「湯垢」と呼ばれるカルシウムの層ができ、内側が錆びにくくなるという独特の性質を持ちます。さらに鉄瓶で沸かしたお湯は軟水化され、まろやかな味わいになるのも魅力の一つです。
南部鉄器の代表的な製品は鉄瓶と急須
南部鉄器の代表的な製品には、鉄瓶や急須があります。鉄瓶はお湯を沸かすための器具で、急須はお茶を淹れるために使われます。
これらの器具は、鉄製ならではの重厚感とシンプルな美しさが特徴であり、現代ではカラフルなデザインやモダンな形状の製品も人気です。また、鉄鍋も南部鉄器の一部であり、蓄熱性に優れているため、短時間で食材を均一に加熱することができ、料理の味を引き立てます。
他にも、風鈴やキャンドルスタンドなど、インテリアとしても活用される製品が多数作られています。このように南部鉄器は、伝統を守りながらも現代的なデザインを取り入れ、多様な製品を展開することで、その魅力を国内外に広めています。
なぜ南部鉄器はサビやすいのか?
南部鉄器はその重厚で美しいデザインが特徴ですが、鉄製であるためサビが発生しやすいという性質もあります。適切に手入れを行うことで、長く使い続けることができますが、まずは鉄がサビる理由やサビの種類について理解することが大切です。
ここでは、鉄瓶がサビやすい理由と発生するサビの種類について解説していきます。
鉄の性質とサビの関係
南部鉄器がサビやすいのは、鉄という素材が酸素や水分と反応して酸化しやすい性質を持つためです。鉄製品が水や湿気に触れると、鉄の表面に酸化反応が起こり、これがサビ(酸化鉄)となります。
特に鉄瓶や急須など、水を使う器具はサビが発生しやすいため、使用後の乾燥や適切な保管が欠かせません。以下は、南部鉄器がサビる主な原因です。
水分 | 鉄は水分と反応して酸化鉄を形成し、赤サビが生じます。 |
酸素 | 鉄は空気中の酸素と反応しやすく、サビを促進します。 |
長期放置 | 使用後に水分を残したまま放置すると、サビが進行しやすくなります。 |
赤サビと黒サビの違い
サビには主に赤サビと黒サビの2種類があります。赤サビは、通常の酸化反応でできるもので、鉄が酸素や水分と反応することで発生します。南部鉄器に発生するサビのほとんどは赤サビです。
南部鉄器の赤サビは鉄瓶の内側にできることが多く、お湯を沸かすと赤みがかることがあります。この場合、健康に害はありませんが、味や見た目に影響を与えるため、早めに対処が必要です。
一方、黒サビは鉄製品の表面に形成される酸化被膜で、鉄を保護する役割があります。これは南部鉄器の製造過程で、釜焼きにより意図的に作られ、内部の酸化を防ぐ効果を持つサビです。
もちろん、鉄瓶を適切に使い、湯垢をつけることがサビ防止にもつながりますが、発生するサビの種類をあらかじめ知っておくことで、、サビが発生しても手入れ次第で長く使い続けることができるでしょう。
南部鉄器のサビ防止方法
南部鉄器は美しく耐久性がある一方で、適切なケアが必要な鉄製品です。特にサビが発生しやすいため、日常的な手入れや保管方法を守ることが大切です。
ここでは、サビ防止のための具体的なケア方法を紹介します。
日常的なお手入れの基本
南部鉄器を使う際は、まず水分を残さないことが重要です。使用後は、内部や外部に残った水分をしっかり取り除きましょう。
内部の手入れポイント
鉄瓶や急須を使った後は、余熱で内部を乾かし、蓋を外したまま保管します。鉄瓶は蓋を外し、水分が完全に蒸発するまで自然乾燥させるのがポイントです。
外部の手入れポイント
外側は、使用後に乾いた布で拭くことで、水分を残さないようにしましょう。また、外側に艶を出したい場合は、鉄瓶がまだ温かいうちに硬く絞った布巾で磨くと良いでしょう。
上記のように使用後は、内部と外部の手入れをしっかりとおこなうことでサビの発生を防止することができます。
サビ防止のための「ならし」作業
鉄瓶を初めて使うときには、「ならし」という作業が必要です。この作業は、鉄瓶の内部に「湯垢」を付けることでサビを防ぐ効果があります。
ならし作業の手順は以下のとおりです。
- 鉄瓶の内部を水で軽くすすぐ
- 硬水(ミネラルウォーター)を8分目まで入れて火にかける
- 沸騰したらお湯を捨てる
- 上記の作業を2〜3回繰り返す
ただし、ならしをするときは、蓋は少しずらしてお湯が吹きこぼれないようにすることが重要です。また、湯垢が剥がれても問題ありませんが、内側は強くこすらず、自然に湯垢が付くように使い続けましょう。
長期保管するときの注意点
長期間使用しない場合の保管にも注意しなければなりません。特に南部鉄器は湿気に弱いため、保管場所や対策が重要です。
鉄瓶や急須は水分をしっかり拭き取った後、風通しの良い場所で保管します。湿気がこもらないようにすることがサビを防ぐポイントです。
また、使用しない間もサビが発生しないよう、新聞紙に包んで保管したり、内部に乾燥剤を入れて湿気を防ぐ方法も効果的でしょう。このように湿気を防ぐ工夫をおこなうことで、次回使用するときも安心して使えます。
南部鉄器がサビた場合の対処法
南部鉄器がサビてしまっても、適切に対処することで元の状態に戻すことが可能です。サビの程度に応じて、対処法も異なるため、以下では軽度と重度のサビに分けて対処法を紹介します。
軽度なサビの落とし方
軽度なサビは、日常の使用で簡単に対処できる場合が多いです。赤サビが軽く発生している場合、以下の方法で取り除くことができます。
優しくブラッシング
軽度の赤サビであれば、柔らかい歯ブラシや天然繊維のたわしで軽くこすり落とします。強くこすりすぎると鉄器を傷つける恐れがあるので、慎重に扱うのがポイントです。
お茶や茶殻を使った方法
紅茶や緑茶を鉄瓶に入れて煮出すことで、お茶に含まれるタンニンが赤サビと結合し、黒サビに変わります。この黒サビは鉄を保護する効果があり、赤サビの進行を抑えることができます。
軽度のサビであれば、優しくブラッシングすることで対処できます。また、お茶を使って煮出す方法をおこなうときは、蓋をずらして蒸気が出やすいようにし、30分ほど弱火で煮込むと良いでしょう。
重度なサビの場合の対応
長期間放置されたり、適切にケアされなかった南部鉄器に発生した重度なサビの場合は、以下の対策が必要です。
- タワシでのこすり洗い
- プロによる修理
頑固なサビは、天然繊維のタワシや歯ブラシを使ってしっかりとこすり落とします。サビが広がっている場合でも、強くこすりすぎないように注意が必要です。
また、非常に重度のサビや、底が腐食してしまった場合は、自分での対処が難しいことがあります。この場合、専門業者に依頼し、焼抜きや底の入れ替えなどの修理を行うことが可能です。
修理には費用がかかりますが、長期にわたり使用する価値がある南部鉄器なら、プロによる修理を検討するのも良いでしょう。
サビが発生しても適切に対処すれば、南部鉄器は何十年も使い続けることができるので、日常的なケアを忘れずに行うことが大切です。
サビ防止のための使用上の注意点
南部鉄器を長く美しい状態で使い続けるためには、適切な使い方と保管が重要です。サビ防止のために気をつけるポイントをいくつか紹介します。
適切な火加減と温度管理
南部鉄器を使用する際には、火加減と温度管理に注意が必要です。特に、鉄瓶を使用する場合、中火以下の火力でじっくりとお湯を沸かすのが良いでしょう。
高温で一気に沸かすと、熱によって内部のコーティングが損傷しやすく、サビの原因になります。また、鉄瓶の内部に水分が残らないようにするため、使用後に余熱で乾燥させる程度の短時間の空焚きも効果的です。
使用後に気をつけるポイント
使用後の適切な乾燥と保管がサビ防止には欠かせません。鉄瓶や急須を使用した後は、内部に残ったお湯をすべて捨て、蓋を外して余熱で乾燥させます。
このとき、内部を強くこすらず、自然に乾かすことで、鉄器特有の保護層である湯垢を育てることができます。外側は乾いた布で軽く拭くだけで十分です。強くこすりすぎると、表面のコーティングが損傷し、サビが発生しやすくなります。
南部鉄器は、正しい使い方とケアを心がけることで、何十年にもわたって美しさを保ちながら使用することができます。
まとめ:南部鉄器を長持ちさせるにはこまめな手入れが大事
南部鉄器を長く愛用するためには、日常的な手入れと適切な使用方法が重要です。使用後の水分をしっかりと取り除き、風通しの良い場所で乾燥させるようにしましょう。
また、初めての使用時に行う「ならし」作業で湯垢を付け、内部を保護することもサビを防ぐ有効な方法です。定期的にお手入れをすることで、南部鉄器は一生使える道具になります。