久留米絣(くるめがすり)は、福岡県久留米市を発祥とする日本の伝統的な綿織物です。素朴でありながら洗練された絣模様と、使い込むほどに増す風合いの良さから、「着るほどに馴染む布」として親しまれています。しかし、どのような種類があり、どのように選べばよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、久留米絣の歴史や特徴、種類、長く愛用するためのポイントまで詳しく解説します。

久留米絣とは何か

久留米絣(くるめがすり)は、福岡県久留米市を発祥とする日本の伝統的な綿織物です。独特の「絣(かすり)模様」と、使い込むほどに馴染む柔らかな風合いが特徴で、着物や作務衣、現代のファッションアイテムとしても広く活用されています。

日本にはさまざまな絣織物がありますが、久留米絣はその中でも「手織り」「先染め」「絣模様」の技術が特に優れており、国の重要無形文化財にも指定されています。ここでは、久留米絣の歴史や特徴、他の絣織物との違いについて詳しく解説します。

久留米絣の歴史と起源

久留米絣の歴史は、約200年前の江戸時代後期にさかのぼります。​その始まりは、久留米藩(現在の福岡県久留米市)の少女・井上伝(いのうえ でん)が、着古した絹織物の模様をヒントに、木綿で新たな織物を生み出したことから始まりました。 ​

この技術は、藩の支援を受けて発展し、全国に広がりました。​明治時代には機械化が進みながらも、手織りの伝統技術が受け継がれ、​昭和には「日本三大絣(久留米絣・備後絣・伊予絣)」の一つとして確立されました。 ​

現在では、1957年(昭和32年)に国の重要無形文化財に指定され、久留米の伝統工芸として国内外で高く評価されています。

特徴と魅力

久留米絣の最大の特徴は、「絣(かすり)模様」と呼ばれる独特のデザインと、綿織物ならではの快適な着心地です。具体的な魅力を以下にまとめます。

先染めの糸を使った絣模様

糸を先に染めてから織ることで生まれる独特の模様が特徴です。特に手作業で作られたものは、一つひとつ異なる表情を持ち、職人技が光ります。

丈夫で長持ち

綿素材でありながら耐久性が高く、洗うほどに柔らかく肌になじみます。長く使うほど風合いが増し、愛着の湧く一枚になります。

通気性と吸湿性に優れる

久留米絣は通気性と吸湿性に優れ、日本の蒸し暑い気候に適しています。夏は涼しく、冬は適度な保温性を保つため、年間を通して快適に着用できます。

多彩なデザイン

伝統的な幾何学模様から、現代的なモダンデザインまで、バリエーションが豊富です。近年では、ファッションアイテムやインテリアにも取り入れられています。

これらの特徴から、久留米絣は普段着や部屋着としてだけでなく、ファッションアイテムやインテリアにも幅広く活用されています。
参考:久留米絣について

他の絣織物との違い

日本には「久留米絣」「備後絣」「伊予絣」という三大絣があり、それぞれ異なる特徴を持っています。

久留米絣(くるめがすり)(福岡県久留米市)

久留米絣は、手織りと機械織りの両方があり、丈夫で肌触りが良いのが特徴です。幾何学模様が多く、伝統的なデザインとモダンなデザインの両方が見られます。日常着としての使いやすさも魅力です。

備後絣(びんごがすり)(広島県福山市)

備後絣は、当初は手織りで作られていましたが、明治時代以降に機械織りが導入され、大量生産が可能になりました。藍染めが主流で、シンプルな柄が多いのが特徴です。比較的リーズナブルな価格帯で販売されることが多く、実用的な織物として親しまれています。

伊予絣(いよがすり)(愛媛県松山市)

伊予絣は、細かく精緻な模様が特徴で、伝統的に着物向けに作られることが多い織物です。現在では衣料品や小物にも使われることが増えており、藍染めを中心とした上品なデザインが魅力です。

久留米絣は、この三大絣の中でも特に着心地の良さと丈夫さが際立っており、普段着やファッションアイテムとしても人気があります。

久留米絣の制作工程


久留米絣は、すべての工程が手作業で行われる伝統的な織物です。糸を括って染め、織り上げるまでには多くの工程があり、それぞれに職人の技が詰まっています。

特に、糸の括りや染色には高度な技術が必要で、織り上がるまでに数ヶ月かかることもあります。ここでは、久留米絣に使用される素材や道具、制作の流れについて詳しく解説します。

使用される素材と道具

久留米絣は、天然素材を使用し、職人が伝統的な道具を使って作り上げます。​

主な素材

  • 木綿糸:久留米絣の主な素材で、丈夫で吸湿性に優れ、肌触りが良い
  • 藍(あい):​伝統的な染料で、藍染めによる深みのある色合いが特徴
  • 化学染料:近年では多様な色を出すために、化学染料も併用されてる

主な道具

  • 括り台(くくりだい):​糸を括る際に使用する道具で、括りの精度が反物の完成度を決める重要な工程
  • 染色桶(せんしょくおけ):糸を染めるための桶で、藍染めの場合は発酵した藍液を使用
  • 織機(おりばた):糸を織り上げるための道具で、手織り機(高機・たかばた)が使用される

これらの素材と道具が、久留米絣の独特の風合いを生み出します。

糸の括り・染め・織りの流れ

久留米絣は、糸の準備から織り上げまでの工程を職人が丁寧に行います。それぞれの工程には、独特の技術と伝統が息づいています。

糸の括り(くくり)

括りとは、柄のデザインに合わせて木綿糸を束ね、防染するための処理を施す工程です。この防染部分があることで、染色後に独特の「絣模様」が生まれます。括りの精度が久留米絣の完成度を決定する重要な要素であり、職人が一つひとつ丁寧に作業を行います。

染め(藍染・化学染料)

括りを施した糸を染料に浸け、何度も染めることで深い色合いを出します。伝統的な久留米絣では、天然藍を使用した藍染めが主流ですが、現代ではより多彩な色を表現するために化学染料も併用されています。染めの工程では、糸を染めては乾かし、また染めるという作業を繰り返すことで、色の深みを増していきます。

織り(手織り・機械織り)

染め上げた糸を織機にセットし、柄の位置を正確に合わせながら織り上げていきます。伝統的な久留米絣では、手織り機(高機・たかばた)を使用することが多く、熟練の職人が慎重に作業を進めます。手織りの場合、1反(約12メートル)の反物を織り上げるのに約2週間を要することもあります。近年では機械織りも導入され、より効率的な生産が可能になりました。

このように、「括り」「染め」「織り」という複雑な工程を経ることで、久留米絣ならではの美しい模様と独特の風合いが生み出されます。職人の手仕事による精巧な技術が、現在もなお受け継がれています。

久留米絣の種類とデザイン

久留米絣は、伝統的な柄を受け継ぎながらも、時代とともに新しいデザインが生み出され、幅広い用途で活用されています。昔ながらの絣模様には、それぞれに意味が込められており、縁起の良い柄として愛されてきました。

また、現代ではモダンなデザインの久留米絣も登場し、洋服や雑貨、インテリアなどさまざまなアイテムに取り入れられています。ここでは、伝統的な柄の意味や、新しいデザインの久留米絣、ファッションアイテムとしての活用について詳しく解説します。

伝統的な柄と模様の意味

久留米絣には、昔から受け継がれてきた多様な柄があり、それぞれに意味が込められています。​

十字絣(じゅうじ)

糸の交差で十字模様を作る柄で、魔除けや厄除けの意味を持ちます。​

井桁(いげた)

井戸の枠をモチーフにした柄で、「家が栄える」「繁栄」の象徴とされています。​

亀甲(きっこう)

亀の甲羅のような六角形の柄で、長寿や健康を願う意味があります。​

市松(いちまつ)

格子模様の一種で色の違う正方形または長方形を互い違いに並べた模様で、時代の変遷によって、変化していったことから「出世柄」という意味合いで解釈されている。

これらの柄は、職人が糸を括って染め上げることで生まれ、手作業ならではの温かみが感じられます。

現代の久留米絣の新しいデザイン

伝統的な柄を活かしながら、現代のライフスタイルに適した新しいデザインの久留米絣が登場しています。職人の技術とデザイナーの発想が融合することで、より幅広い用途で活用できるようになっています。

シンプルな幾何学模様

久留米絣の伝統的な幾何学模様を、現代的なシンプルなデザインへとアレンジしたものです。派手すぎず、洗練された印象を持つため、洋服や雑貨などに適しており、日常のファッションアイテムとしても取り入れやすくなっています。

カラーバリエーションの多様化

従来の久留米絣は藍染めが主流でしたが、近年ではグレー、ベージュ、赤など、さまざまな色合いが採用されるようになりました。これにより、よりカジュアルで現代的な感覚に合うデザインが増え、ファッションやインテリアにも幅広く活用されています。

アート性の高いデザイン

職人とデザイナーがコラボレーションすることで、抽象的な模様や大胆な大柄のデザインが増えています。これまでの伝統的な久留米絣のイメージを一新し、アート作品のような独創的な布地としても注目されています。

ストライプやチェック柄

従来の絣模様に加えて、洋装に馴染みやすいストライプやチェック柄の久留米絣も人気を集めています。カジュアルな服やインテリア小物にも適しており、より幅広い世代に愛用されています。

このように、久留米絣は伝統を守りながらも進化を続け、現代の暮らしに溶け込む新しいデザインとして再評価されています。

久留米絣のファッションアイテム

​近年、久留米絣は洋服や小物としても幅広く活用され、伝統工芸の枠を超えた人気を集めています。以下に、久留米絣を使用したファッションアイテムの例を紹介します。​

  • シャツやワンピース
  • パンツやスカート
  • ストールやスカーフ
  • バッグやポーチ
  • 帽子やマスク

このように、久留米絣は伝統を守りながらも、新しい形でファッションやライフスタイルに取り入れられています。​日常使いしやすいデザインが増えており、今後さらに幅広い世代に愛されることが期待されています。

久留米絣の魅力と価値

久留米絣は、シンプルでありながらも深い味わいを持つ日本の伝統織物です。その魅力は、着心地の良さや実用性に加え、職人の手仕事による芸術的な価値にもあります。

綿素材の柔らかさと通気性の良さから、日常着として快適に着られ、洗うほどに風合いが増していきます。また、丈夫で長持ちするため、何年も愛用できるのも大きな魅力です。さらに、伝統工芸品としての評価も高まり、近年ではアート作品としての価値も見直されています。ここでは、久留米絣の持つ価値について詳しく解説します。

日常着としての着心地の良さ

久留米絣は、日常着としての快適さに優れており、普段着や作務衣、部屋着として幅広く活用されています。​特に以下のような特徴が久留米絣の人気を高めています。

綿100%の自然な肌触り

久留米絣は全て綿素材で作られており、肌触りが良いとされています。 ​

通気性と吸湿性が高い

綿素材の特性により、通気性が良く、夏は涼しく、保温性もあるため冬にも適しているとされています。 ​

軽くて動きやすい

久留米絣は軽く、動きやすい生地で、長時間着ていても疲れにくいとされています。 ​

このように、久留米絣はリラックスした着心地を求める人に最適で、普段着としても人気があります。

久留米絣の丈夫で長持ちする実用性

久留米絣は、伝統的な技法によって織られた丈夫な生地であり、耐久性に優れています。そのため、日常着や作業着としても広く活用されています。

洗うほどに風合いが増す

久留米絣は、使い込むほどに生地が柔らかくなり、肌触りが良くなります。綿100%の素材が持つ特性により、着用と洗濯を繰り返すことでより快適な着心地へと変化していきます。

摩擦に強い

久留米絣には太番手の綿糸が使用されており、摩擦に強く、長く着用してもほつれにくいという特徴があります。そのため、作務衣やエプロンなど、日常的に着る衣服や仕事着としても愛用されています。

シワになりにくい

細番手の綿糸を高密度に織り上げた久留米絣の生地は、光沢感があり、シワになりにくい特徴を持っています。これにより、アイロンがけの手間が少なく、日常的に扱いやすい点も魅力の一つです。

このように、久留米絣は耐久性と実用性に優れた織物であり、長く愛用できる点が特徴です。長持ちすることで廃棄を減らし、環境にも優しいエコなファッションアイテムとしても注目されています。

工芸品・アートとしての価値

久留米絣は、伝統的な技術によって生み出される工芸品としての価値を持ち、アート的な魅力も備えています。以下に、その特徴を紹介します。​

すべての工程が手仕事

久留米絣の製作工程は、括り、染め、織りの全てが職人の手作業によって行われます。​この手仕事により、生地に独特の風合いと温かみが生まれ、熟練の職人が生み出す工芸品・アートとしての価値が高まります。​

一点ごとに異なる風合い

手作業ならではの微妙な違いが各製品に現れ、同じ柄でも一点一点異なる表情を持つのが特徴です。​これにより、唯一無二のアイテムとしての価値が高まります。​

現代アートとの融合

近年、久留米絣はアーティストとのコラボレーションが進み、伝統と現代アートの融合が見られます。​例えば、福岡県の伝統工芸である久留米絣とアーティストWOK22氏がコラボレーションし、オリジナルデザインの焼酎ボトルを制作・販売する取り組みが行われました。 ​

また、久留米絣は美術館やギャラリーで展示されることもあり、伝統工芸の枠を超えた芸術作品としての価値も高まっています。​さらに、ファッションデザイナーやインテリアデザイナーが久留米絣を取り入れ、新たな表現が生まれています。​

このように、久留米絣は日常着としての快適さと実用性を備えつつ、工芸品としての美しさやアート性も兼ね備えた特別な織物と言えるでしょう。

久留米絣のお手入れと保管方法

久留米絣は、綿100%の天然素材で作られており、適切なお手入れをすれば長く愛用できる織物です。特に、洗濯や保管方法に気をつけることで、色合いや風合いを損なわず、経年変化を楽しみながら着用することができます。

ここでは、自宅でできる洗濯とメンテナンス、長く愛用するための保管のコツについて詳しく解説します。

自宅でできる洗濯とメンテナンス

久留米絣は基本的に自宅で洗濯できますが、生地を傷めないように丁寧に扱うことが大切です。適切な方法でお手入れすることで、風合いを保ち長く愛用できます。

手洗いがおすすめ

久留米絣は繊細な織物のため、できるだけ手洗いが推奨されます。少量の中性洗剤を使用し、水またはぬるま湯で優しく押し洗いをすると、生地が長持ちします。強くもみ洗いすると繊維が傷む原因になるため注意が必要です。

洗濯機を使う場合

洗濯機で洗う際は、洗濯ネットに入れ、「弱水流」または「手洗いコース」を選択すると、生地へのダメージを抑えられます。他の衣類と一緒に洗うと色移りする可能性があるため、単独で洗うことが推奨されています。

すすぎと脱水

洗剤が残らないよう、しっかりとすすぐことが大切です。脱水は短時間(約2分程度)にとどめ、軽く水気を切る程度にするとシワがつきにくくなります。強い脱水をすると生地が傷む原因となるため注意しましょう。

干し方

直射日光を避け、風通しの良い日陰で陰干しするのが理想的です。形を整えて干すことで、シワができにくくなり、美しい状態を保つことができます。

アイロンがけ

シワが気になる場合は、中温で当て布をしてアイロンをかけるときれいに仕上がります。強い熱を加えすぎると生地が傷む可能性があるため、温度管理には注意が必要です。

このように、適切な方法でお手入れを行うことで、久留米絣の風合いと品質を長く保つことができます。

長く愛用するための保管のコツ

久留米絣を長期間保管する際は、湿気や虫害を防ぎ、風合いを損なわないようにすることが大切です。以下に、適切な保管方法をリスト形式で解説します。​

収納前に必ず洗濯する

汗や汚れが残ったままだと、変色やシミの原因になるため、必ず洗ってから収納します。​また、しっかり乾かしてから畳むことで、カビや臭いを防ぐことができます。​

風通しの良い場所で保管する

湿気の少ない場所に保管することが重要です。​桐のタンスや通気性の良い紙箱に入れるのが理想的です。​

防虫対策をする

化学系の防虫剤ではなく、天然の「防虫シート」や「杉の木片」を活用することで、生地への影響を抑えつつ防虫効果を得られます。​これらは直接生地に触れないようにし、適度に交換することが大切です。​

たまに陰干しする

数ヶ月に一度、風通しの良い日陰で干すと、湿気を防ぎながら長持ちさせることができます。​直射日光は色あせの原因になるため、必ず陰干しを行いましょう。​

このように、適切な洗濯と保管を心がけることで、久留米絣を長く美しく愛用することができます。

まとめ

久留米絣は、200年以上の歴史を持つ日本の伝統織物であり、独特の絣模様や優れた着心地が特徴です。日常着としての実用性だけでなく、工芸品としての価値も高く、近年では洋服やインテリア、海外市場など新たな分野へと広がりを見せています。

しかし、後継者不足や市場の縮小といった課題も抱えており、職人の育成やプロモーションの強化が求められています。伝統を守りながらも、現代のライフスタイルに適応することで、久留米絣の魅力はさらに広がっていくでしょう。

久留米絣は、単なる織物ではなく、日本の職人技と文化が詰まった特別な存在です。ぜひ一度手に取り、その魅力を実際に感じてみてください。

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日本の伝統工芸の魅力を世界に発信する専門家集団です。人間国宝や著名作家の作品、伝統技術の継承、最新の工芸トレンドまで、幅広い視点で日本の工芸文化を探求しています。「Kogei Japonica 工芸ジャポニカ」を通じて、伝統と革新が融合する新しい工芸の世界をご紹介し、日本の伝統文化の未来を世界とつなぐ架け橋として活動を行っています。

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